第15回 競走馬の走スピードの限界因子を考える

走スピードの限界因子とは
 
 
ジャパンカップ(2400m)のレコードタイムは2分22秒2(ホーリックス)で、秒速に換算すると約16.9mになります。走スピード(m/秒)=ストライド(m/完歩)×ピッチ(完歩/秒)で、ホーリックスのストライド(1完歩の歩幅)は分かりませんが、仮に7.5mとすると、スタートからゴールまで320完歩を要したことになります。つまり、16.9(m/秒)≒7.5(m/完歩)×2.25(完歩/秒)という式が成立します。ここで、ストライドを7.5より大きくするかピッチを2.25より速くすれば、もっと速いスピードで走れます。しかし、何らかの制限因子が働き、ピッチやストライドには限界があります。そのスピードを制限する因子を走スピードの限界因子といいます

 
スピードの限界因子となるレース中の疾病や疲労
 
 1例をあげると、レース中に心房細動を発症すると、急にスピードが鈍り、心臓が限界因子(最も低いレベルにある機能)となったことが分かります。心房細動になると、心房から心室への血液量が減少―心臓からの心拍出量の減少―筋への酸素の供給の減少―筋でのエネルギーの産生量が減少―筋の収縮力の低下、そしてスピードがダウンするのです。運動性肺出血では肺が、喘鳴症では咽喉が限界因子となったことが分かります。スタート直後、多くの馬はハロン10秒台で走れますが、長い距離を走ったあとには疲労のためにスピードは鈍ります。レース中になぜ疲労するのか、たくさんの研究はありますが、決定的なことは分かっていません。レース中の疲労はいろいろな原因でいろいろな部位に発生し、疲労によるスピードの限界因子は個々の馬によって異なると推測されます。
 
スピードの限界因子は複雑
 
 走スピードの限界因子は、走る距離によって異なります。一般に、短距離では筋の最大出力(あるいは、無酸素性エネルギーの産生能力)、長距離では最大酸素摂取量(あるいは、有酸素性エネルギー産生能力)などが限界因子になると考えられています。生まれつきの速筋・遅筋線維の比率の違いは無酸素や有酸素のエネルギー産生能力に影響します。よく体力の要素には心・技・体があるといわれますが、その心(集中力など)は筋の最大出力に影響します。技(走行フォーム、関節の柔軟性など)はエネルギー効率に影響します。体(有酸素性、無酸素性エネルギーなど)は、筋の収縮力やその持続時間に影響します。有酸素性エネルギーは、循環器系因子(最大心拍出量、血流再配分)、呼吸系因子(最大肺換気量、酸素利用率)、代謝性因子、筋量などによって規定されています。さらに、その最大心拍出量は最大心拍数と1回拍出量の積で決まります。このように、走スピードの限界因子を分析していくと、とどめもなく細分化され、しかもそれらの因子が複雑に絡み合っていることが分かります。要は、すべての機能が同時に限界に達してスピードが制限されるのではなく、その馬の最も低いレベルにある機能が、スピードの限界因子になることを理解すべきです。
 
 
おわりに
 
 
走スピードの限界因子を知ることは、パフォーマンスを高める方法を知ることと同義です。このスピードの限界因子はその馬の最大の弱点であり、その機能を改善することによってスピードがアップするのです。このスピードの限界因子を知る科学的評価法は、総研の重要な研究課題です。今のところ、経験と勘に加えて、スポーツ科学の知識をフルに活用して、総合的に判断する以外に道はないのです。

(競走馬総合研究所、久保勝義)


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