皮膚糸状菌症 (Dermatophytosis)


●はじめに

ケラチン化した皮膚の表皮や毛根部、さらに蹄の角質層などに好んで感染し、病変を起こす真菌による皮膚疾患です。原因菌にはいくつかの種類がありますが、いずれもミクロスポーラム(Microsporum)属とトリコフィートン(Trichophyton)属の真菌です。これらは動物への寄生性が強く、人にも感染します(人畜共通感染症)。皮膚病巣は一点から始まり、炎症の激しい部分が円を描くように同心円状に広がることから輪癬(Ringworm)といわれます。また、本症はその外見から白癬とも呼ばれます。この病気は馬の健康に重大な障害を与えることはほとんどありませんが、体表の広い範囲に及ぶこともあり馬の美観を著しくそこねます。


●病原体

馬に対して感受性の強い真菌としてミクロスポーラム属とトリコフィートン属があげられます。前者にはM. equinumM. canisM. gypseumなどがあり、後者にはT. equinumT. mentagrophytesT. verrucosumT. schoenleiniT. ajelloiなどがあります。馬の皮膚糸状菌症の原因菌がはじめて明らかにされたのは、ミクロスポーラム属で、その後トリコフィートン属が明らかにされました。


●感染様式

馬と馬が直接あるいは人や物を介して間接的に接触することで伝播します。競走馬など個別に飼育されている馬では、鞍やその他の装着部品を共用することによって起こる間接的な接触感染が重要です。また、汚染したブラシ、クシなどの用具による皮毛の手入れが感染の機会を助長します。特にT. equinumは乾燥状態で1年以上も生存するといわれています。またトリコフィートン属の真菌はげっ歯類が媒介動物になると考えられています。


●疫学

本症は全世界的に分布するものと思われますが、わが国の症例ではほとんどがT. equinumによるものです。かつて1930年代から1940年のはじめにかけて、軍馬に多くの被害をもたらしたことがあります。その後、目立った被害は認められませんでしたが、1972年8月26日から9月16日にかけて、JRAの小倉競馬場に在厩する競走馬588頭のなかで100頭(17%)に皮膚糸状菌症の流行がみられました。原因菌はT. equinum で、従来わが国でみられたものと同じ種類でした。発生部位は頚部(19.0%)、キ甲部(18.1%)、帯径部(16.9%)、腰部(15.2%)、ヒバラ(13.2%)、臀部(8.2%)、四肢(7.8%)、顔面(1.6%)でした。感染率に関して馬の種類や性別に有意な差はみられませんでしたが、2才馬群に僅かに高い傾向がみられました。また、1987年4月から1988年8月にかけてJRAの美浦トレーニングセンターで皮膚糸状菌症の流行があり、72頭について調査した成績によると72例中29例(40.3%)が皮膚糸状菌症と診断されました。このうち26例(36.1%)からT. equinumが分離され、3例(4.2%)からM. equinumが分離されました。この調査で、わが国においても諸外国と同様にM. equinumが皮膚糸状菌症の原因菌になっていることがはじめて明らかにされました。病巣の発生部位は、肩部から背部にかけて最も多く、次いで頚部ならびに腰部、そして頭部と下肢部の順で、1972年の競馬場における流行とほぼ同様の傾向がみられました。


●臨床症状

輪癬または白癬は直径約3 cm 程の円形の病巣で、被毛脱落と痂皮の形成を伴って同心円状に大きさを増していきます(図1、図2)。病巣の好発部位は頚部、肩部、背部ですが、顔面の眼瞼周囲や尾翼周囲にも出現します。初期の病巣はやや腫脹し、数日のうちに周辺は鱗屑で被われ、小さな湿疹が現れます。色素のない皮膚では、やや赤みがかってみえます。小水疱は破れ、新たな痂皮を形成します。被毛のない乾燥した病巣はカビが生えたようにみえます。これらは数週間から数カ月の間に、互いに融合して肥厚・増大し、強固に付着します。ときに痒覚を伴うことがあり、いつも擦られる病巣では膿様痂皮となることがあります。なお、1987年から1988年に流行したトレーニングセンターにおける競走馬の皮膚糸状菌症に関する調査成績によれば、病巣の大きさは小豆大から母指頭大のものがほとんどでした。

図2. 後肢にみられた病巣

図1. 顔面にみられた皮膚糸状菌症の病変


●診断

内因性あるいはアレルギー性、また細菌感染症による皮膚疾患との鑑別が必要です。原因を特定するには被毛あるいは掻きとった皮膚を直接顕微鏡で検査し、原因菌の存在を確認します。検査室では被毛に付着した真菌を特殊な方法で染め出して顕微鏡で観察したり、分離培養を行って真菌を同定します。最近、人用の皮膚糸状菌検出培地が市販されており、これを利用して比較的容易に診断することが可能になっています。血清学的診断法は開発されていません。


●予防と治療法

予防は新しく導入した馬について2週間程度の観察期間を設け、この間は他馬との接触を避け、馬房や馬具を他の馬と共用しないことが大切です。また皮膚糸状菌症を疑う馬も上記と同様に取り扱う必要があります。発症が軽度であれば2〜3週間で自然治癒しますが、治療は感染部位を逆性石鹸で洗い流します。顔や陰部など刺激を受けやすい局所には、抗真菌薬の使用が適当と思われます。