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●はじめに 馬ピロプラズマ病は、赤血球中に原虫が寄生することによって起こる馬の伝染病で、古くからアフリカで発生していました。この原虫が馬に感染すると、馬は貧血、黄疸、発熱、血尿などの臨床症状を示し、罹患した馬の約10%が死亡するといわれています。馬に寄生するピロプラズマ原虫にはバベシア・カバリ(Babesia caballi)とバベシア・エクイ(Babesia equi)の2種類があり、このことからバべシア病とも呼ばれています。一度この病気が発生するとその清浄化はきわめて困難で、風土病として定着して毎年流行を繰り返すようになります。わが国における発生は今のところ確認されていませんが、家畜伝染病に指定されており重要な伝染病の一つです。
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●病原体 馬の赤血球に寄生する原虫は、血液塗沫標本をギムザ染色してから顕微鏡で観察すると、バベシア・エクイの虫体は小型で、細長方形、円形あるいは洋梨子状の形を示します(図1)。通常、大きさは約2ミクロンで、1つの赤血球には1〜2個、または4個の原虫が寄生しているのが観察されます。特徴的な形態を示す4個の虫体は、その形が十字架に似ていることからマルタクロスと呼ばれています。バベシア・カバリの虫体はバベシア・エクイに比べて大型で、大きさは約2〜5ミクロンです。赤血球に寄生する原虫は一端が鋭角、他の端は円形の洋梨子状で、多くはこれらが一対の双梨子状を示します(図2)。しかし、実際にはバベシア・エクイのマルタクロスやバベシア・カバリの双梨子状を示す典型的な形態は、これら原虫の感染後半にならないと観察されず、感染初期や慢性化した症例では両者の区別は困難です。
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●感染様式 馬の赤血球に寄生する2種類のピロプラズマ原虫は、いずれもダニによって媒介されます。馬ピロプラズマに感染した動物の血液をダニが吸血すると、ダニがピロプラズマ原虫に感染し、ダニの消化管(腸)や唾液腺で増殖します。そしてダニが別の馬に寄生して、唾液腺のピロプラズマ原虫が吸血時に感染します。馬のピロプラズマ原虫は、固有宿主である馬族の馬、ロバ、ラバ、シマウマに感染しますが、牛、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコなど他の種類の動物には感染しません。しかし、最近、抵抗力の弱い子供や老人がバベシア・エクイに感染するという報告もあります。
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●疫学 馬ピロプラズマ病は南ヨーロッパ、アジア、ロシア、アフリカ、中南米などに分布していますが、わが国では発生したことはありません。馬のピロプラズマ原虫はダニの媒介で伝播されますが、すべてのダニが媒介するのではなく世界中で12種類のダニが媒介に関与することが知られています。また、イギリスではピロプラズマ原虫を媒介するダニが、渡り鳥に寄生して一緒に温暖な汚染地から運ばれてくるという防疫上の問題点が指摘されています。
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●臨床症状 バベシア・エクイに感染すると、10〜21日間の潜伏期を経過して40℃以上の発熱とともに、赤血球の半数以上が壊されて顕著な貧血と黄疸、元気消失、衰弱、やや遅れて出血性下痢や血尿がみられ、急性例では酸素欠乏症となって死亡します(図3、4)。感染馬が3週間以上生存すると、末梢の赤血球から原虫は消失しますが、それ以降は原虫保有馬となります。このような馬の免疫機構が何かの原因で衰えたりすると、再び症状を現すことがあります。
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●診断 馬ピロプラズマ病の診断法には、大きく分けて2種類の方法があります。一つは感染した馬の赤血球塗沫標本から、顕微鏡観察によって原虫を見つけだす方法です。これは臨床症状が明らかな急性期の病馬の診断には有効ですが、慢性に耐過した馬では赤血球から原虫がいなくなるため、この方法による診断は困難となります。他の一つは、感染した馬の血液中の抗体を調べる方法で、補体結合反応と間接蛍光抗体法という方法があります。特に、間接蛍光抗体法はバベシア・エクイとバベシア・カバリの感染を区別することができる利点があります。これらの方法も抗体価が低下した慢性感染馬では、診断が困難となることがあります。
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●予防と治療法 現在、予防法としての有効なワクチンはありません。しかし、最近わが国では牛のピロプラズマ病に対して先端技術を応用したワクチンの開発研究が進められており、近い将来、世界に先駆けた新しいワクチンができあがるかも知れません。一方、毎年、風土病として発生がみられる南ヨーロッパやアフリカでは治療薬としてテトラサイクリン系の抗生物質やイミドカーブという駆虫剤などによる治療試験が試みられていますが、今のところ特効薬はみつかってません。対象療法としては、輸血や増血剤の投与などがあります。
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