喉嚢真菌症 (Guttural-pouch mycosis)


●はじめに

普通、喉嚢炎と呼ばれていますが、これには喉嚢カタルや喉嚢蓄膿症なども含まれます。喉嚢は馬、サイ、バクなど奇蹄類の動物が持つ特異な器官で、粘膜直下に太い動脈が走行しています。喉嚢真菌症は喉嚢粘膜に真菌が感染することによって起こる疾病です。粘膜内に侵入した真菌は、しばしば動脈の血管壁を破壊することがあり、これが原因となって感染馬は出血多量で死亡することもあります。


●病原体

喉嚢真菌症は馬の上部気道感染症の一つで、原因菌としてPaecilomyces、Scopulariopsis、Penicillium、Aspergillusなどが関与しています。なかでも主要な原因菌はアスペルギルス属、アスペルギルス菌群に分類されるEmericella nidullanceAspergillus nidullans)です。アスペルギルス属は自然界で最も普遍的に存在する真菌で、世界的に分布しますが特に温帯、亜熱帯地方の土壌に広くみられます。


●感染様式

Emericella nidullanceは厩舎の敷料や乾草に多く含まれ、これらに混在する真菌の胞子を吸入することによって感染が成立します。呼吸とともに微量の気流が耳管の喉頭開口部から流入しますが、このとき真菌が喉嚢に感染します。健康な馬の喉嚢洗浄液にも原因となる真菌がしばしば認められので、喉嚢真菌症が発症するためには真菌の存在以外に他の条件が関わっているものと考えられます。それには細菌の感染や粘膜の微少損傷などの誘因があるものと推測されています。


●疫学

本症は1950年代までは散発的な発生報告しかみられなかったため、馬の感染症として特に問題視されていませんでした。しかしながら、その後、イギリス、ドイツ、オーストラリア、アメリカ、日本などから相次いで報告されてから、本症が重要な馬の感染症として認識されるようになりました。本症の発生は一般的には厩舎内で飼養される馬に認められ、晩春から夏にかけて温暖な季節に年令、性別に関係なく散発的に発生します。


●臨床症状

1) 症状
最も重要な臨床症状は鼻出血で、出血は24時間から数週間の間隔で再発します。鼻出血は前駆症状がなく突発的に起こることが多く、耳下腺の疼痛、嚥下困難、呼吸時の異常音、斜頚、発汗、振戦、鼻カタル、視覚障害、縮瞳、顔面麻痺、疝痛などを伴うことがあります。喉嚢粘膜下の内頚動脈が真菌の感染によって侵され鼻出血が起こりますが、出血は通常偏側性で僅かに滴下するものから激しく流出するものまで様々です(図1、2)。

図1. 感染馬の鼻孔から軽度の鼻出血を繰り返す(上山競馬場馬主会診療所 山口俊夫氏提供)

図2. 感染馬の鼻孔から大量の鼻出血が噴出する(上山競馬場馬主会診療所 山口俊夫氏提供)

2) よく似た病気との区別
鼻出血、嚥下困難、鼻カタル、耳下腺の浮腫などは喉嚢真菌症に限らず種々の疾病で認められます。鼻出血は肺出血、調教あるいは競馬出走後にみられる咽頭および鼻腔内の微小血管の破裂による出血、鼻甲介の壊死、篩骨の血腫、咽頭および喉嚢にできた腫瘍による出血などとの識別が必要となります。


●診断

確実な診断には内視鏡を用いた検査が必要です。耳管開口部からの出血、さらに喉嚢内への出血を確認します。確定診断は内視鏡による病変部の生検を実施し、真菌培養検査と病理組織学的検査を行います。血清診断として実用化された特別な診断法はありません。


●予防と治療法

特別な予防法はありませんが、馬房の通気を良くして衛生状態を良好に保ち、喉嚢カタルがあれば治療しておくことが予防につながります。治療法は喉嚢の洗浄と薬剤投与です。鼻出血を認めた症例に対しては、内頚動脈の結紮術が施されます。また、最近の治療法としては、マイクロコイルや離脱式バルーンを用いた動脈栓塞術があります。