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●はじめに 馬のネズミチフス菌感染症は下痢を主徴とする細菌性の伝染病で、人にも感染して食中毒などを起こす人畜共通感染症です。馬における本症の存在は古くから知られていましたが、諸外国に比べるとわが国では発生例数が少なく、あまり注目されない伝染病の一つでした。しかしながら1981〜1982年に北海道日高地方で明らかな流行があり、その後も散発的に発生が報告されている油断のならない病気です。
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●病原体 ネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)は、わが国の馬の生産地におけるサルモネラ下痢症の主要原因菌です。本菌は馬パラチフス菌と同じO4群のサルモネラ菌ですが、馬パラチフス菌が馬科の動物にだけ感染するのに対して、種を超えて多くの動物に感染するという特徴を持っています。サルモネラ下痢症の子馬から分離されるその他のサルモネラ菌には、Salmonella javaやSalmonella infantisなどがあります。
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●感染様式 Salmonella Typhimuriumが子馬に感染すると下痢や関節炎あるいは敗血症を起こします。1歳以上の育成馬に感染すると、一過性の発熱と軽い下痢で耐過する場合があります。感染経路は経口感染で、Salmonella Abortusequiと同様な伝播様式をとりますが、Salmonella Typhimuriumに感受性の強いネズミが媒介動物として存在すると汚染地域が急速に拡大することがあります。また、野生動物を含めた種々の動物に対して広い宿主域を持つため、一度汚染された地域の清浄化は困難といわれています。
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●疫学 本症は世界各地で発生しています。わが国では諸外国に比べると発生件数は少ないのですが、1981〜1982年に北海道日高地方で流行があり、代表的な発生例として表1にその時の発生状況を示します。 表1. 1981〜1982年の北海道日高地方におけるSalmonella Typhimuriumによる下痢症馬の発生状況 (加藤秀樹:第10回生産地における軽種馬の疾病に関するシンポジウム議事録,1982)
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●臨床症状 生後8カ月以下の子馬に感染すると39℃前後の発熱を伴った下痢が認められます。脱水症状が顕著で哺乳せず、食欲不振となって多発性関節炎に移行する例や、重症例では敗血症で死亡することもあります。成馬では多くの例で軽い発熱と一過性の下痢を起こして耐過しますが、死亡例や妊娠馬における流産例も報告されています。
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●診断 化膿巣がある例では膿汁を採取し、菌分離を行います。下痢症の例では、下痢便を材料として菌分離を試みますが、この時はDHLなどの選択培地を用います。
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●予防と治療法 ワクチンはありません。軽度の下痢であれば自然治癒しますが、敗血症を起こした場合は抗菌剤の投与が必要となります。しかしSalmonella Typhimuriumは多剤耐性となりやすい性質があるため、薬剤の選択は慎重に行う必要があります。
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