Jones先生の紹介

 競走馬がレース後に鼻出血することがあります。この出血が肺からの出血であることは現在良く知られていますが、この事実を初めて明らかにしたのがカリフォルニア大学デービス校の研究グループです。彼らは、柔軟な気管支鏡を用いて出血が肺からであることを確認し、1981年に発表した論文で、運動性肺出血(EIPH:Exercise-induced Pulmonary Hemorrhage)と命名しました。その後、多くの研究者がこの疾病の原因究明に挑みました。
 カリフォルニア大学の研究グループも研究を続け、ひとつの仮説に達していました。それは、サラブレッドの心臓機能が優秀すぎることによって、構造の弱い肺に影響が出ているのではないかということです。このことを証明するためには、運動中の心臓機能を詳細に調べなければなりません。1997年、JRA競走馬総合研究所の海外招聘研究として運動性肺出血の原因究明に関する研究が立ち上がり、カリフォルニア大学側の研究者としてJames H. Jones教授が来日しました。実験は、開胸手術により心臓にいくつかの測定器具を取り付けた後にトレッドミル運動負荷試験を行ない、運動中の心臓機能を評価するという手間もかかり、そして困難なものでした。以来、カリフォルニア大学とJRA競走馬総合研究所は現在まで継続的に研究交流を行なっています。
 Jones先生は、普段は大変温厚な紳士ですが、ひとたび研究の話になると、大変厳しい先生でもあります。研究室員が執筆した論文の査読をお願いすると、厳しいコメントが返されて、論文は一層良いものになります。若手の研究員にとっては、論文の書き方や研究の進め方を習得するのに最も良いアドバイザーとなっています。また、最近ではJRAの若手獣医師の海外研修でもお世話になる機会の多い先生でもあります。
 Jones先生は、著名な比較動物生理学者であるシュミット・ニールセン教授(デューク大学)に師事し、1979年に博士号を取得しました。研究を進めるうち、獣医学の必要性を感じ、1983年にコロラド州立大学で獣医師の資格を得ました。その後、ハーバード大学において、これも著名な比較動物生理学者であるテイラー教授のグループで多種にわたる動物の運動時の酸素運搬系機能の研究に従事しました。研究に使った動物は、数グラムのネズミから数トンのゾウ、さらには鳥類にまでおよびます。1987年にカリフォルニア大学デービス校に移り、以後、主として馬の運動生理学研究を行なっています。
 東洋的なものに興味を持っていたJones先生は1997年の来日以来、日本の魅力に惹かれました。中でも日本庭園や寺院に関する知識は我々もまったく歯が立ちません。カリフォルニア大学の教授でありながら、大学の日本文化に関するコースで単位を取得し、授業の一環として京都で開かれた大学の夏季セミナーにも出席しています。京都の寺院はほとんど訪問しており、日本三庭園や日本三景もすでに踏破済みです。自宅の庭も日本庭園への変貌を遂げている最中で、つい最近も日本の楓や桜を植樹したばかりです。今度先生の自宅を訪問するのが楽しみです。
 多くの動物種を用いた実験経験があり、比較動物学的な興味深い知見を数多く持っている先生の講義は分かりやすくおもしろいという定評があります。来年4月に宇都宮で開催される第147回日本獣医学会においても講演をお願いしています。


写真:カリフォルニア大学の研究グループとの懇親会。
左から二人目がJones教授。左から3人目が1981年に運動性肺出血という名前をはじめて使った
論文を執筆したPascoe教授。Pascoe教授は筆頭副学長、Jones教授は学部長の要職にある。



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