入厩検疫の迅速化と馬伝染性貧血エライザ診断法の開発
競馬場の入厩検疫は競走馬を伝染病の被害から守るための大切な制度です。
JRAでは、多くの競走馬を繋養している東西トレセンや競馬場で伝染病が流行すること
を予防するため、伝染病防あつ規定を設けて入厩検疫を厳格に行っています。この規程の
中の入厩検疫制度は、家畜防疫対策要綱の「競馬場等馬の集団飼育施設における衛生対策
指針」に基くもので、競走馬はもとよりそれ以外の馬でも、これらの施設に入厩あるいは
再入厩しようとする場合には、全て入厩検疫を受けなければなりません。実際に入厩検疫
では、書類検査や臨床検査などに加えて馬伝染性貧血、馬インフルエンザ、馬鼻肺炎また
は日本脳炎の抗体検査や馬インフルエンザ、馬ゲタウイルス感染症、破傷風などの予防接
種を実施し、JRAの施設内への伝染病の侵入防止と施設内での伝染病の発生防止に努め
ています。
入厩検疫では、家畜伝染病である馬伝染性貧血が長い間最重要検査対象となってい
ました。
馬伝染性貧血の検査は、家畜伝染病予防法施行規則で定められた寒天ゲル内沈降反応とい
う免疫学的診断法で行います。検査時間は24〜48時間と長く、トレセンの入厩検疫では
判定が下されるまで、競走馬を検疫厩舎に繋留しなければなりません。入厩検疫に要する
時間は実質的には馬伝染性貧血の検査時間に左右されており、このように長い繋留時間が
競走馬はもとより厩務員にとってこれまで大きな負担となっていました。もし馬伝染性貧
血の検査時間が短縮し入厩当日に馬を解放できるようになれば、検疫厩舎の馬房の数だけ、
すなわち現状の2倍の頭数の入厩検疫が可能となります。トレセンでは、入厩する競走馬
が増加するに連れて検疫厩舎の拡充を求める声が高まり、同時に検疫期間の短縮に結びつ
く迅速診断法の開発が強く求められるようになりました。
馬伝染性貧血エライザ診断法の開発により入厩検疫の迅速化が実現されました。
エライザ診断法は酵素免疫測定法の一種で、感度や精度の優れた迅速診断法として知られ
ています。総研栃木支所では、1983年から馬伝染性貧血エライザ診断法の研究を進めて
いましたが、1993年から診断キットの実用化に本格的に着手するとともに、ロボットシ
ステムの導入による検査の自動化を試みました。その結果、1994年にはその実用性が確
認され、栗東ならびに美浦トレセンなどで入厩検疫における馬伝染性貧血のスクリーニン
グ検査法として利用されるようになりました。この検査で陽性あるいは疑陽性と判定され
た場合は、寒天ゲル内沈降反応で確定診断を行う必要がありますが、多くの競走馬はスク
リーニング検査で陰性と判定されるため、入厩当日に解放されます。その結果、検疫厩舎
の効率的な利用が可能となり、入厩頭数の増大並びに競走馬や厩務員の負担の大幅な軽減
という目標が達成されました。
エライザ診断キットの実用化では、検出感度と特異性の向上が最大の障壁となりま
した。
馬伝染性貧血のスクリーニング検査法では、馬伝染性貧血の陽性馬は全て漏らさず摘発で
きる検出感度が求められます。このことからエライザ診断キットの開発では、この目的を
達成させるため、特異性のみならず感度を高めるための研究に多くの時間が費やされまし
た。また、検査の自動化については、当時エイズのスクリーニング検査に導入され始めた
コンピューター制御によるロボットシステムを応用した検査装置の活用を考え、その運用
ソフトを開発して成功に結び付けることができました。現在では総研栃木支所と日本生物
科学研究所が共同開発した幾つかの伝染病の診断キットを組み合わせて、同時に数種類の
伝染病の診断が可能な自動あるいは手動検査装置がトレセンや競馬場に配備され、入厩検
疫で有効に利用されています。
(総研 Y.F. M.K. 2002.4.3)

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