馬伝染性貧血の寒天ゲル内沈降反応の開発と実用化
馬伝染性貧血は不治の病であり、多くの馬が犠牲となってきました。 馬伝染性貧血(伝貧)は、伝貧ウイルスの感染によっておこされる馬属特有の家畜伝染病です。本病 に一旦感染しますと生涯完治することなく、発熱と貧血を何度も繰り返します。わが国では多くの馬 が本病の犠牲になってきた経緯があり(表1)、競馬の施行にも大きな脅威になっていました。その ため本病は長期にわたり、馬の伝染病の中で特別に重要視され続けたにもかかわらず、その確実な診 断法が開発されるまでには、実に多数の研究者の努力と莫大な時間が費やされました。伝貧馬を確実に診断することができるゲル内沈降反応が開発されました。 伝貧がウイルス性の病気であることは、1904年から知られていました。 しかしながら、ウイルスを 人工的に培養細胞で増殖させる方法が見つからなかったことやウイルスが馬以外の実験動物には感染 しなかったことから、伝貧ウイルスの研究の進展は他のウイルスに比べると遥かに遅れをとりました。 それゆえ、本病を確実に診断できる方法を開発するための糸口を見い出すことができませんでした。 その間、血液塗沫による担鉄細胞検出法が本病の診断法として用いられていましたが、特異性が低く、 伝貧馬を確実に摘発し、清浄化するためには新しい診断法の開発が必要でした。 1961年に農水省家畜衛生試験場の小林博士が馬白血球培養による伝貧ウイルスの培養に成功し、そ の後、補体結合反応、中和反応、寒天ゲル内沈降反応(図1)の新しい免疫学的診断法があいついで開 発されました。なかでも同試験場の中島博士が1971年に開発しました寒天ゲル内沈降反応は、精度の 高い本病の診断法であり、その実用化が期待されました。
寒天ゲル内沈降反応を本病の診断法として実用化するための共同研究が、総研栃木支所で 実施されました。 1965年の東京競馬場における伝貧の集団発生以来、伝貧の清浄化は、JRAにとって防疫上極めて重 要な命題でした。そこで、1972年から1974年にかけて、中島博士と総研栃木支所は寒天ゲル内沈降 反応の診断法としての有用性を確認するために共同研究を実施しました。その研究では、多数の実験 感染馬や自然感染馬の血液を用いて寒天ゲル内沈降反応と他の検査法が比較され、寒天ゲル内沈降反 応が伝貧の特異的診断法として極めて有効な検査法であることが確認されました。この研究成績は、 1978年に、寒天ゲル内沈降反応が伝貧の公的な診断法として採用されるようになった家畜伝染病予 防法の改正のための貴重な資料となりました。 寒天ゲル内沈降反応が家畜伝染病予防法の診断法に採用されてから、短期間で伝貧の清浄化 が進みました。 この寒天ゲル内沈降反応がわが国の家畜伝染予防法の新しい検査法として導入されるに至って、伝貧 馬が確実に摘発されるようになり、本病の清浄化が着実に進みました。 JRA所属馬においては、1978 年を最後に伝貧馬は摘発されなくなりました。また、わが国では、1984年に発生頭数が0になり、その 後1993年に2頭発生がありましたが、この後、本病の発生は認められていません。しかし、諸外国に はまだ多数の伝貧馬が存在し、近年毎年数千頭の馬が輸入されている現状から、今後とも引き続き、本 病に対する監視が重要です。 (総研栃木支所 今川 浩 2004.3.30)
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