競走馬総合研究所栃木支所で開発されたエライザ診断キット一覧
1.馬伝染性貧血エライザ診断キット
家畜伝染病に指定されている馬伝染性貧血の検査は、トレセンの入厩検疫では市販の診断液を用い
た寒天ゲル内沈降反応という免疫学的診断法で行います。判定に要する時間は24〜48時間と長く、
その間、競走馬を検疫厩舎に繋留しなければなりません。トレセンでは、入厩する競走馬が増加する
に連れて検疫施設の拡充を求める声が高まり、検疫期間の短縮が可能な迅速診断法の開発が強く求め
られるようになりました。そこで、総研栃木支所では1983年から開発を進めていた迅速診断法の一
種である馬伝染性貧血エライザ診断キットの実用化に着手しました。
この診断キットは、マイクロプレート(96穴)というプラスチック製品に診断用抗原を付着させた
もので、1列8穴組みのブロックを12組み連結して1枚のプレートを作ります。従って、これらは必
要に応じて取り外して使うこともできます。トレセンの入厩検疫では、馬伝染性貧血と馬インフルエ
ンザは通年、それに加えて11〜4月は馬鼻肺炎、5〜10月は日本脳炎の3種類の診断キットを組み合
わせて同時に使いますので、プレート1枚(96穴)で最大24頭を検査することができます。この検査
で陽性と判定された場合は、寒天ゲル内沈降反応で確定診断を行いますが、殆どの馬は数時間で陰性
と判定されますので、入厩当日に解放されます。1994年に東西トレセンに全自動検査システムが導入
されてから、検疫厩舎の稼動率が著しく向上するとともに、検疫中の競走馬や厩務員の負担も大幅に
軽減されました。
開発期間は1993年〜1994年の2年間。「馬感染症の診断および予防法に関する研究―診断法の応用
について」、「馬の海外伝染病および法定伝染病に関する研究―馬伝染性貧血」、「馬伝染性貧血の迅速
診断法としてのエライザ法の開発と応用」という総研栃木支所の一般および特命研究課題で、1983年〜
1992年にかけ長期間に亘って基礎的な開発研究を行っております。
2.馬鼻肺炎エライザ診断キット
馬鼻肺炎は、トレセンの競走馬で冬期に発生頻度が高くなる発熱や呼吸器疾患など、いわゆる風邪の
原因の一つで、時には続発症として神経障害を伴うことがあります。トレセンでは通常1月から2月の間
に流行することが多く、競走馬の調教スケジュールを狂わせたり出走取り消しの原因になることも少な
くありません。また、流行が3月から4月まで連れ込みますと、競馬のクラシック戦線に大きな影響を
与えることになります。このことから、冬から春にかけてトレセンに入厩する競走馬のうち、抗体レベ
ルの低いものに予防接種を実施し、流行を予防することになりました。そこで総研栃木支所では、多頭
数の競走馬を迅速に検査することができ、かつトレセンの全自動検査システムに導入可能なエライザ診
断キットの開発に着手しました。
この診断キットは、馬伝染性貧血エライザ診断キットの項で述べたと同様にマイクロプレートに診断
用抗原を付着させて作ったもので、取り扱い方はほとんど同じです。入厩検疫では、馬伝染性貧血およ
び馬インフルエンザエライザ診断キットと組み合わせて全自動検査システムにセットし、11月から4月
の6ヶ月間に亘って検査します。この検査では入厩する全ての馬の抗体価をチェックし、抗体を保有しな
い馬や抗体価の低い馬には予防接種を実施します。その結果、トレセン特有の冬期に発生する馬鼻肺炎
による発熱や呼吸器疾患の流行は減少し、調教スケジュールなどに支障を及ぼす心配も少なくなりまし
た。
開発期間は1993年〜1994年の2年間。「感染症のエライザ診断法の野外応用試験」という特命研究
課題で、総研栃木支所が日本生物科学研究所と共同で開発研究を行っております。
3.日本脳炎エライザ診断キット
日本脳炎は、馬伝染性貧血と同様に家畜伝染病に指定されていますが、人畜共通伝染病であり公衆衛
生上も重要な伝染病です。JRAでは過去の流行による大きな被害を教訓に、全ての競走馬に日本脳炎
の予防接種を行う一方で、予防効果を確認するために抗体検査を行ってきました。検査は総研栃木支所
が市販の診断液を用いて行っていましたが、全自動検査システムがトレセンの入厩検疫に導入されたこ
とから、この検査システムに組み込むことが可能な日本脳炎エライザ診断キットの開発に着手すること
になりました。
この診断キットは、馬伝染性貧血エライザ診断キットの項で述べたと同様にマイクロプレートに診断
用抗原を付着させて作ったもので、取り扱い方はほとんど同じです。入厩検疫では、馬伝染性貧血およ
び馬インフルエンザエライザ診断キットと組み合わせて全自動検査システムにセットし、5月から10月
の6ヶ月間に亘って検査します。例えば、入厩時と秋の定期検査時の抗体レベルをチェックすれば、トレ
セン在厩馬が十分な抗体を持っていたか、あるいは感染があったか、さらにワクチンや予防接種プログ
ラムに問題がなかったかなどについて知ることができます。
開発期間は1993年〜1995年の3年間。「感染症のエライザ診断法の野外応用試験」という特命研究
課題で、総研栃木支所が日本生物科学研究所と共同で開発研究を行っております。
4.馬インフルエンザエライザ診断キット
馬インフルエンザは届出伝染病ですが、競走馬や乗馬の移動に伴って世界各国で大きな流行を起こす
ことから、競馬や馬術競技の世界では最も恐れられている国際伝染病です。世界的に競走馬の予防接種
が義務づけられており、毎年6ヶ月ごとの追加接種が推奨されています。JRAでは、全ての競走馬に
馬インフルエンザの予防接種を行う一方で、予防効果を確認するために抗体検査を行ってきました。検
査は総研栃木支所が市販の診断液を用いて行っていましたが、全自動検査システムがトレセンの入厩検
疫に導入されたことから、この検査システムに組み込むことが可能な馬インフルエンザエライザ診断
キットの開発に着手することになりました。
この診断キットは、馬伝染性貧血エライザ診断キットの項で述べたと同様にマイクロプレートに診断
用抗原を付着させて作ったもので、取り扱い方はほとんど同じです。入厩検疫では、馬伝染性貧血およ
び馬鼻肺炎、または日本脳炎エライザ診断キットと組み合わせて全自動検査システムにセットし、一年
を通して検査を実施します。例えば、入厩時や定期検査時の抗体レベルをチェックすれば、入厩馬やト
レセン在厩馬が十分な抗体を持っているか、あるいはワクチンや予防接種プログラムに問題がないかな
どについて知ることができます。
開発期間は1994年〜1996年の3年間。「感染症のエライザ診断法の野外応用試験」という特命研究
課題で、総研栃木支所が日本生物科学研究所と共同で開発研究を行っております。
5.馬ウイルス性動脈炎エライザ診断キット
馬ウイルス性動脈炎は届出伝染病に指定されていますが、わが国に侵入する危険性が最も高い海外伝
染病です。輸入検査や着地検査では、国際的に認知された中和試験という免疫学的診断法が使用されま
すが、生きたウイルスと細胞を使いますので特別な検査施設がないと実施できません。また、この試験
は判定までに数日間かかります。そこで1998年から遺伝子工学的手法を用いて、安全、迅速かつ精度の
高い免疫学的診断法として馬ウイルス性動脈炎エライザ診断キットの開発に着手しました。
この診断キットは馬伝染性貧血エライザ診断キットの項で述べたと同様にマイクロプレートに診断用
抗原を付着させて使いますので、取り扱い方はほとんど同じです。また、1999年から2000年にかけて
米国とスウェーデンの研究機関の協力を得て行った野外試験の結果、その信頼性については中和試験と
比べても遜色の無いレベルであることが確認されております。現在、総研栃木支所と動物検疫所では、
生産地における馬ウイルス性動脈炎の疫学監視や輸入馬のスクリーニング検査にこの診断キットをそれ
ぞれ活用し、その診断的価値についてさらに確認作業を行っているところです。
開発期間は1998年〜2000年の3年間。「馬動脈炎ウイルス遺伝子の構造および機能の解析」と「馬
ウイルス性動脈炎診断用抗原の発現および機能解析」という交流共同研究課題で、総研栃木支所と農林水
産省家畜衛生試験場が1991年〜1996年にかけて基礎的な開発研究を行っております。
6.馬ピロプラズマ病エライザ診断キット
馬ピロプラズマ病は家畜伝染病ですが、わが国では国家検定を受けた診断液は市販されていません。
輸入検査や着地検査では、国際的に認知された補体結合反応という免疫学的診断法が使用されています
が、この診断液は馬ピロプラズマ病の病原体が感染した実験馬の赤血球から総研栃木支所が自前で作製
しています。しかし、この診断液を作製するには特別な施設と大変な労力やお金が掛かりますし、高品
質なものを得るとなると至難の業といえるほど困難な作業です。そこで遺伝子工学的手法を用いて、安
全、簡便かつ精度の高い免疫学的診断法として馬ピロプラズマ病エライザ診断キットの開発に着手しま
した。
この診断キットは、馬伝染性貧血エライザキットの項で述べたと同様にマイクロプレートに診断用抗
原を付着させて使いますので、取り扱い方はほとんど同じです。現在、総研栃木支所と動物検疫所で
は、疫学監視や輸入馬のスクリーニング検査にこの診断キットをそれぞれ活用し、その診断的価値につ
いて確認作業を行っているところです。
開発期間は1999年〜2001年の3年間。「馬ピロプラズマ病のDNA診断に関する研究」と「遺伝子
組換え技術を用いた馬ピロプラズマ病の血清診断法の開発研究」という委託研究課題で、総研栃木支所と
北海道大学が1991年〜1996年にかけて基礎的な開発研究を行っております。

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