日本の軽種馬に科学的な飼養管理の導入を可能にした    「軽種馬飼養標準(1998年版)」の刊行

日本には、長い間、軽種馬を飼養管理するための基準となる 「軽種馬飼養標準」 がありませんでした。    日本には約10万頭の馬がおり、そのうち約6万頭が軽種馬です。毎年約1万頭の軽種馬が 誕生し、彼らの多くは2〜3年後に競走馬としてデビューするために大切に育てられています。 軽種馬は、成長時期や飼養される目的によって、概ね以下のように分けることができます。即 ち、種牡馬や繁殖牝馬、子馬、1歳および2歳の育成馬、それと競走馬です。これらは、それ ぞれ飼養管理方法が異なっており、とくに給与される飼料の質と量はそれらの健康を維持し、 それぞれの能力を最大限に発揮するために最も重要な部分を占めています。しかし、日本には これまで、軽種馬の成長時期や飼養される目的応じて必要となる養分要求量や科学的根拠に基 づいた合理的な飼養管理方法をについて解説する手引書はありませんでした。そのため、長い 間、飼養現場において経験や勘に頼った飼養管理がなされていました。このような状況から、 軽種馬の生産や育成に携わる関係者やトレセンなどの厩舎関係者など実に多くの方々から、日 本の軽種馬に適した「軽種馬飼養標準」を作成してほしいとの要望があり、その刊行にとりか かりました。   軽種馬飼養標準作成委員会が設立され、本標準の作成には必要な資料の収集と検討 および各種試験が実施されました。    軽種馬飼養標準を作成するにあたり、まず国内の試験研究機関に所属する動物栄養の専門家 による軽種馬飼養標準作成委員会を組織しました。委員長として過去に国内のいろいろな家畜 の飼養標準作成に関わってこられた動物栄養学の大家である亀岡暄一先生(当時、日本科学飼 料協会理事長)に労をとっていただき、委員には北海道大学教授の故朝日田康司先生や京都大 学教授の矢野秀雄先生などの諸先生に携わっていただきました。委員会では3年間にわたり、 日本の環境に適した飼養管理方法を示すための各種試験の計画立案と実施、その成績の検討な らびに海外で報告された成績との比較などが精力的に行なわれました。さらに、実際の試験研 究にあたるワーキンググループを平成7年2月に組織し、JRA日高育成牧場や研究馬の繋養を預 託した民間の生産牧場などでデータを集積しました。ワーキンググループにより実施された試 験は、発育時の馬の養分要求量を策定するための基礎とするために、育成馬の放牧時の採食量 調査や子馬が母乳や放牧草から摂取する栄養素の量が発育に伴いどのように変化するか、また 育成馬の窒素出納(どのくらい窒素を摂取してどのくらい排泄するかを調べ、タンパク質要求 量を検討する)はどうか、などいずれのも24時間単位で行うものばかりで何度も徹夜で試験が 行なわれました。とくに、生後3日齢から開始する母乳摂取量の調査は、子馬が生まれたという 連絡と同時に北海道へ出発する準備を始め、到着した日から徹夜で子馬の観察を始めるなど、 大変な苦労がありました。このような作成委員会ならびにこの作成に関わった研究者の努力に より、念願の軽種馬飼養標準が予定通り1998年に刊行されました。   軽種馬飼養のためのマニュアルとして「軽種馬飼養標準」が刊行されたことにより、 現場において科学的な馬の飼養管理が実施されるようになりました。    完成された「軽種馬飼養標準」は、軽種馬の生産や育成、競走馬などの飼養管理の現場のみ ならず、乗馬の飼養管理や飼料メーカーおよび販売会社などの関係者にも広く利用されていま す。また、海外にもその存在が知られ評価されています。おもな利用方法としては、生産現場 では子馬の発育時に発症する骨疾患を予防するために、適切な発育が行われているかどうかを 知るための標準発育表や離乳前の適切なクリープフィーディング(母乳だけでは栄養が不足す る子馬に専用の飼料給与を行う方法)が参考にされています。また、発育期でありながら運動 負荷が行われる育成馬では、馬体の栄養状態を外貌や触診により点数評価するボディコンディ ションスコア法の利用が馬体調整に有用であり、本飼養標準にはボディコンディションスコア 法がイラスト付きで説明され、好評を博しています。その他、各ステージにおける各種栄養素 の要求量の提示や飼料成分表、それらを参考にしながら馬の要求量を満たすための飼料配合方 法についても解説されています。このように、「軽種馬飼養標準」の刊行は科学的根拠に基づ いた飼養管理方法の導入を可能にし、わが国における「強い馬づくり」に大いに貢献していま す。   (日高育成牧場 朝井 洋  2004.6.28)  
注:軽種馬飼養標準は2004年に改訂版が出版されています

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