馬用ワクチンの開発と改良
◆単味ワクチン
馬インフルエンザ不活化ワクチン
馬インフルエンザは家畜伝染病予防法で届出伝染病に指定されており、ウイルスの感染により起こる
極めて伝染力の強い呼吸器感染症です。わが国では、1971年末から翌年にかけて輸入乗用馬が引き金
となって全国的規模の大流行が発生しました。当時、我が国では、馬インフルエンザは海外から侵入す
る可能性の最も高い病気として、不測の事態に備えるために1969年から研究に着手し、1970年には
メーカーと共同でワクチン開発研究を開始しました。そのため、流行が終息した1972年の春には馬イ
ンフルエンザワクチンの野外試験が実施され、その年の秋には製品化されました。その後、海外で流行
しているウイルスの抗原変異に対応するため、1985年、1996年および2004年にワクチン株が変更さ
れ現在に至っております。現行ワクチンには、ウマ1型として Newmarket/77株 、ウマ2型として
La Plata/93株と Avesta/93株が含有されています。
馬ゲタウイルス感染症不活化ワクチン
馬ゲタウイルス感染症はゲタウイルスの感染によって起こる発疹を伴う熱性疾患です。ウイルスは豚
により増幅され、蚊の媒介によって馬に感染します。本病の存在は、臨床的には古くから知られていま
したが、それがウイルス病であることはだれも想像する人はいませんでした。美浦トレーニングセンタ
ーが開設された最初の年である1978年の秋に発疹を伴う熱性疾患の大きな流行がありました。その原
因究明によって、これまで報告のないゲタウイルスがこの流行の原因ウイルスであることが初めて明ら
かになりました。流行の終息後、直ちにワクチンの開発研究が始り、1979年には試作ワクチンの開発
に成功し、その年から野外試験として JRA所属の殆どの競走馬に接種されました。以後、このワクチン
はJRA所属の全競走馬に毎年、定期的に接種されており、今日まで JRAの施設内では本病の発生は全く
認められなくなりました。なお、本ワクチンが正式に製品化されたのは、1982年です。
馬ウイルス性動脈炎不活化ワクチン
馬ウイルス性動脈炎は家畜伝染病予防法で届出伝染病に指定されており、感染馬は重度な全身感染症
を起こし、妊娠馬では流産を伴います。本疾病は日本には存在しませんが、米国やヨーロッパ諸国など
多数の国が汚染国です。それ故、本疾病が我が国に侵入する可能性が危惧されています。このワクチン
は、1991年に製品化され、万一の発生に備えて日本中央競馬会馬事部によって備蓄されています。
馬鼻肺炎不活化ワクチン
馬鼻肺炎は家畜伝染病予防法で届出伝染病に指定されており、妊娠馬では流産を、競走馬では主に冬
期に呼吸器疾患と神経症状を引き起こします。1967年に北海道日高地方や千葉県のサラブレッド種生
産牧場で90頭以上の流産を起こし、軽種馬生産に大きな被害を与えました。この流行を契機に、日本中
央競馬会の助成により日本軽種馬協会を通じて家畜衛生試験場にワクチン開発のための基礎研究が委託
されました。その研究成果を基に馬鼻肺炎の流産予防用ワクチン( HH-1BK株を子牛腎臓由来の浮遊培
養細胞 CKTC6-1 細胞で増殖させて作製された)が1980年に製品化されました。ところが、このワク
チンが接種された妊娠馬の中にも流産を起こすものがあることが分かり、より効果的なワクチンの開発
が必要となりました。そこで、1986年から1990年に日本中央競馬会の助成により家畜衛生試験場、日
本生物科学研究所ならびに北里大、農工大および日獣大にワクチン効果を高めるための委託研究が開始
されました。その研究成果としてウイルスを馬皮膚由来の EFD-C1細胞で培養することによって抗原力
価を高めた2代目の改良ワクチンが1992年に製品化されました。また、1994年〜1995年にかけてこ
のワクチンが呼吸器感染症予防効果のあることが野外試験で確認され、このワクチンが流産予防ととも
に呼吸器感染症予防としても使用できるようになりました。現在、本ワクチンは生産地の妊娠馬の流産
予防と競走馬の呼吸器感染症予防のために接種されています。
日本脳炎不活化ワクチン
日本脳炎は、家畜伝染病予防法で法定伝染病に指定されている人獣共通伝染病です。
本病は古くは日本中央競馬会の発足前の1947年に東京・中山競馬場で40数頭の発生が記録されていま
す。そのため、本病は当時不治の病として知られる馬伝染性貧血とともに最も恐れられていた病気で、
1948年には既に予防接種が開始されていました。さらに、1958年からは改良日本脳炎高力価ワクチン
の予防接種の集団接種が行われ、それにより本病の発生頭数は暫時減少していきました。ところが、関
東近郊の牧場で1983年に5頭、1984年に1頭、1985年に3頭と引き続いて本症の真症例が摘発される
に至り、改めてワクチンの見直しが必要となりました。そこで、栃木支所はワクチンメーカーと協力し
て、それまで40年間使用されていた哺乳マウス脳由来のワクチン株(中山株)をヒト用ワクチンに先駆
けて組織培養由来の北京株に変更した新たな不活化ワクチンを開発しました。この新ワクチンは流行ウ
イルスに対して幅広い防禦能があり、従来ワクチンに見られたような副作用は全くなく、かつ、免疫の
持続効果の極めて優れたものです。同時に競走馬に対する新ワクチンの接種方法について検討し、本症
を予防できるワクチン接種プログラムを樹立しました。この新ワクチンとこのワクチン接種プログラム
は現在まで変更することなく、本会ならびに地方競馬の競走馬に使用され、本症の防遏に役立てられて
います。
馬ロタウイルス感染症不活化ワクチン
馬ロタウイルス感染症は、哺乳中の仔馬に急性下痢を起こす病気です。日本では、1981年に北海道
日高地方の子馬の下痢便からウイルスが分離され、この病気の存在がはじめて明らかになりました。そ
の後、10年余の調査研究により、北海道日高地方では毎年ロタウイルスによる子馬の下痢症が多発して
いることが明らかになりました。このワクチンは母子免疫ワクチンであり、妊娠馬に筋肉注射します。
これによって出産後母馬の乳汁中にはロタイウルスの感染予防に必要な抗体が充分量含まれ、これを哺
乳した新生子馬にこの免疫が伝達されます。そのため子馬はロタウイルスの感染を阻止し、あるいは、
感染しても下痢症状を大幅に緩和できます。このワクチンは子馬の正常な発育を願う生産関係者の強い
要望に応えて2001年に製品化されています。
◆混合ワクチン
2種混合(馬ゲタウイルス感染症・日本脳炎)ワクチン
馬ゲタウイルス感染症と日本脳炎の流行時期は、いずれも夏から秋にかけてであるため、両ワクチン
は、同時にそれぞれ別々に馬に接種されていました。若齢競走馬への注射は常に危険を伴うことや労力
も大きなことからも混合ワクチンの開発が求められていました。このワクチンは1997年に製品化され
ています。
3種混合(馬インフルエンザ、日本脳炎、破傷風)ワクチン
生産地における1歳の育成馬のワクチン接種においては馬インフルエンザ、日本脳炎、破傷風の3種
のワクチンが同時期に接種されていました。まだ、十分に馴致されていない育成馬に3本のワクチンを
同時に接種することは人馬ともにかなりの危険が伴うとともに、子馬に苦痛を与え、またワクチン接種
にかかる労力も無視できないものがあり、生産地の関係者から混合ワクチンの開発が長らく切望されて
いました。これらの要望に応えるために、この3種混合ワクチンは2000年に製品化されました。なお、
2005年の発売から馬インフルエンザのワクチン株として、ウマ1型の Newmarket/77株 、ウマ2型
の La Plata/93株と Avesta/93株が含有されたものに変更されています。

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