ウマロタウイルス感染症不活化ワクチンの開発

ウマロタウイルス感染症について    ウマロタウイルス感染症は、哺乳中の子馬に急性下痢症を起こす病気で、主な症状は、下痢(図1) 、発熱、元気消沈、哺乳の低下あるいは停止です。この他、野外における重症例では、沈鬱、疝痛など を伴います。この病気により死亡することは稀ですが、離乳前の子馬の発育に悪影響を及ぼす危険性が 高いことから、脱水を防ぐための補液と抗生物質の投与による早期治療が不可欠であります。  海外において本症の存在が明らかにされたのは1970年代の中頃であり、わが国では、筆者らにより、 1981年に北海道日高地方の子馬の下痢便からウマロタウイルス(図2)を分離することにより、その 存在が確認されました。  




図1. 感染子馬の下痢便
図2. ウマロタウイルス粒子
  本症の発生状況を調べるための疫学調査    サラブレッドの生産地である北海道日高地方では、「白痢症」と呼ばれる子馬の急性下痢症が古くから あり、経験的にこの下痢症が伝染することが知られていました。筆者らはこの「白痢症」を起こしている のはロタウイルスではなかろうかと推察し、その下痢便からウイルス分離を試みたところ、予想どおりロ タウイルスの分離に成功しました。その後、現地の獣医師の方々の協力を得て数年間地道な本症の疫学調 査が実施されました。その結果、生産地では毎年数百頭の子馬が本症に罹り下痢症を発症しており、発育 に対する弊害ならびに治療のための労力も少なくないことが明らかになりました。このため、牧場関係者 や獣医師の方々から本症に対するワクチン開発を望む声が年ごとに大きくなり、我々もそのワクチン開発 の必要性を強く認識するようになってきました。   ワクチンの基礎研究とワクチンメーカーとの製品開発    離乳前の子馬に予防接種を実施しても、それほどの効果は文献的にも期待できないことから、この病気 の予防には、母子免疫ワクチンが適当であろうと考えました。そこで、1994〜1996年にかけて本症の 不活化ワクチンの基礎研究を実施し、本病には母子免疫ワクチンが有効であることを実証しました。即ち、 まず、妊娠馬にワクチン接種することにより、高い免疫を賦与させます。この妊娠馬の初乳にはロタウイ ルスに対する高力価の抗体が含まれています。そのため、この初乳を飲んだ子馬は受動免疫により、ロタ ウイルスに感染しても下痢症に罹らないか、たとえ下痢症を起こしてもその症状を大幅に緩和できました。 そこで、1997〜1999年にかけて、日本生物科学研究所と共同で、ワクチンの製品化に必要な野外評価試 験を含む各種の開発研究を実施しました。この開発研究により、本ワクチンの野外における安全性および 有効性が確認され、2001年に農水省からワクチンの製造承認許可を得ることができました。ワクチンは その年の10月から発売され、生産地において子馬の急性下痢症の発生予防およびその治療行為の大幅な軽 減に貢献しています。   (栃木支所 今川 浩2005.4.11)

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