★ 2012.12.19

 
プロラクチンというホルモンは?

 今年の北海道の冬は、一瞬にしてやってまいりました。ここ浦河町にある日高育成牧場でも写真のとおり、11月始めにはまだ紅葉を楽しむことができましたが、12月に入ってあっという間に雪景色となりました。この時期の日高の積雪は根雪にならずに融けることが多いのですが、その後も雨交じりの雪が数日毎に降り続き、牧場内ではこのまま根雪になりそうな気配です。

  
日高育成牧場内の11月初旬(左)と12月初旬(右)の風景。今年の冬は、一気に到来した感があります。

 突然の冬将軍は各地で混乱を招きました。名寄や音威子府(おといねっぷ)では100cmを超える積雪を記録しており、12/10にはJRの列車が89本も運休となりました。しかし、北海道はもともと大雪に強いところ。除雪作業が迅速なので、復旧までに時間はかかりません。ニセコ地区のスキー場では12月初旬にしてすでに250cmの積雪量となっており、新千歳空港にスキーウエアを着た外国人観光客の姿が見られるといううれしい情報も聞こえてきます。日本に北海道があることは世界に誇れる自慢であると思います。

  
道央、道北地方では、12月初旬にしては記録的な大雪に見舞われましたが、交通の復旧はとても迅速です。道北を走るJR列車(左)と冬の新千歳空港(右)の様子。

 一方、例年より早く雪に覆われた放牧地にいる当場の当歳馬に目をむけると、少し雪が降ったぐらいではへこたれていません。8頭の当歳馬たちは、4頭ずつ昼放牧群(21時間)と昼夜放牧群(7時間)に分かれて放牧されています。昼放牧群は力を有り余らせているのか、せっせせっせと雪を前肢で掻き、雪の下から緑色の草を掘り出してはおいしそうに食しています。

  
雪に覆われた放牧地で、当歳馬たちはせっせと雪を前肢で掻き、緑色の草を掘り出してはおいしそうに食しています。

 厳冬期には積雪がより深く、より硬くなり、蹄への負担も多くなります。世界中ほとんどのサラブレッドが雪のないところで生産される点と比較すると、雪を前肢で掘り起こすという行動は、日本でしか見られないものです。馬の行動ひとつとっても、寒冷地独自の調査研究が必要であることを表しているものと思われます。現在、北の研究室で実施している「冬季昼夜放牧の生理学的検証ならびに育成期に発生する各種疾患に関する調査研究」では、日高地方における育成馬の飼養管理技術の向上を図るとともに、育成期に発症する肢勢異常や発育期の疾患などの対処法について検討することを目的とし、寒冷地でサラブレッドを生産する関係者が抱える問題について様々な角度から検証したいと思います。  さて、上記のような若馬に備わっている生理を研究する上で、血液中の微量ホルモンを測定することは、馬が本来持つ特性を理解する近道であると考えられます。馬は典型的な季節繁殖動物で、生殖に関係するホルモンが季節とともにダイナミックに変化することはこれまでもよく知られていました。この度、「プロラクチン」という本来母馬の泌乳を促進すると考えられてきたホルモンが、雄馬にも分泌されていること、生後間もない時期から成馬と同量の分泌をしていることが、岐阜大学大学院との共同研究で初めて明らかとなりました。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrd/58/5/58_2011-025/_article

 
生後14ヶ月までの雄馬の血中LH(左上)、テストステロン(右上)、FSH(左中)、エストラジオール(右中)、プロラクチン(左下)、インヒビン(右下)濃度の変化。J Reprod Dev. 2012;58(5):522-30より。

 プロラクチンは、下垂体前葉という脳の下にある内分泌器官から分泌されるホルモンで乳汁分泌を維持する作用がよく知られています。多くの下垂体ホルモンが視床下部からの刺激によって分泌されるのに対して、プロラクチンだけはドパミンによる抑制によって制御されていることが知られています。ヒトの内分泌医療では、ドパミンやドパミン拮抗剤を用いて不妊治療に威力を発揮しています。0-14ヶ月齢雄馬の血中プロラクチン濃度の変化をみると、日長時間の変化に伴ってプロラクチン分泌が亢進し、当歳馬の夏頃(生後3ヶ月)の血中濃度は、春季発動が開始している翌年の同時期とほぼ同等の値を示します。同じく下垂体前葉から分泌され、春機発動に関与するLHやFSHなどの性腺刺激ホルモンは、1歳になって大きく上昇し、プロラクチンの変化とは異なっています。最近の研究では、プロラクチンレセプター(受容体)は、精巣の細胞や精子になる細胞(雌には卵胞顆粒膜細胞など)にも発現すること、末梢リンパ球などの免疫細胞にも発現することから、動物の生殖能力や免疫活性を調節する重要なホルモンである可能性が示唆されてきました。  お産に関係のあるオキシトシン、エストラジオールなどのホルモンも、雄の生体で重要な働きをしていることが徐々に明らかとなりつつあります。「母は強し」の格言が示すように、妊娠・分娩という現象を司るホルモンには、強い馬づくりを進めるたくさんの鍵が隠されているのかもしれません。今後の研究が期待されます。

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