★2004.6.7

 
 5月17日の日誌でお伝えしたメドウフォックステール(黒穂)はその後も勢力衰えず、みるみる採草地を黒くしています。肝心のチモシーはその下で穂を膨らませ始めていますが、出穂(しゅっすい)にはもう少し時間がかかるようです。黒穂の勢いを何とか止めることはできないものかと、穂の部分だけを刈り払ってみることにしました(写真1,2)。刈り取り高さを約40cmとし、まだ背丈が低いチモシーには傷をつけずにメドウフォックステールの黒い穂だけ落ちるように刈りました。手をこまねいているよりも、一時しのぎに終わる可能性もあるけれど、いずれ結実期を迎え、あらたな種が草地に落ちることを少しでも防ぎ、また、刈り払うことによってチモシーにも日光をよくあて、生育を一段と伸ばすことを期待しての作戦です。
 一方、草地の一画では土壌改良資材が牧草の生育に及ぼす試験を開始しました(写真3)。狭い面積ですが、沖積土壌(河川が運んできた上流の岩石や土壌が堆積した土壌で火山性土壌に比べ良質な牧草が生産できる)と黒ボク土壌(黒色火山性土とも呼ばれリン酸を固定する力が強く、良質牧草生産には肥料を多く必要とする)に造成した試験ほ場に土壌改良資材と肥料の投入量に水準を設けて効果を検討しています。
 研究馬の出産から交配にいたる繁殖シーズンもひと段落、これからは子馬の本格的なクリープフィーディング(子馬専用のエサを食べさせてやる)や親子ともども昼夜放牧(放牧時間を長くするために、夜間も放牧を行う方法)を始めます。これらについても日誌の中で紹介していきたいと思っています。


写真1:1番牧草の収穫まで約1ヵ月だが、これが吉と出るか、凶と出るか(5月24日撮影)
 
写真2:左半分がメドウフォックステールの穂だけ刈った部分で、刈らなかった右半分に比べて緑色が鮮やか(6月2日撮影)
 

写真3:黒ボク土壌に造成した試験ほ場に地温測定のためのセットをする研修生の澤村君、手前の足跡は夜のうちに牧草の新芽を狙う鹿によるもの。 写真4:今年2月に生まれた当歳馬(2月12日付け日誌の写真3で紹介した子馬)も、放牧地でカメラを向けるとポーズをとるまでに成長しました。

 

★2004.6.14

 
 今年生まれた子馬のうち、2月生まれの4頭は先日より本格的なクリープフィーディングを行っています(写真1)。クリープフィーディングのクリープ(creep)は英語で「はう、腹ばう、そっと忍び足に歩く」などの意味で、フィーディング(feeding)は「飼料を与える」の意味です。すなわち、クリープフィーディングとは、母馬は侵入できないが体高の低い子馬なら入り込めるスペースで子馬に専用の飼料(離乳食)を食べさせる離乳前の飼養管理技術です。子馬の離乳は生後5-6ヶ月で行うのが一般的ですが、生後2-3ヶ月にもなると、母乳だけでは栄養不足になることがわかっています。この時期、子馬もわかっているのか、母馬の飼料のつまみ食いをするようになります。しかし、母馬の濃厚飼料(エンバクなどエネルギーの高い飼料)は子馬の栄養に見合ったものではなく、温厚な母馬を持つ子馬であれば遠慮もせずに食べ過ぎてしまうこともあります。子馬の食べすぎは急速な発育を促し、その結果、発育過程にある骨や関節に悪影響を与えることが科学的に証明されています。また、子馬が母馬の濃厚飼料を食べすぎることによる子馬の胃潰瘍発生も懸念されています。このようなことから、生後2-3ヶ月の子馬には、なるべく母馬の飼料を食べさせないような工夫をするとともに子馬専用の飼料をクリープフィーディングによって与えることが丈夫な子馬に育てていく上で重要なことだと考えられます。
 一方、採草地では、今年の牧草収穫を始めました(写真3)。北海道の主要な採草用草種チモシーも出穂期(しゅっすい:穂が出る時期、写真4)をむかえ6月下旬頃までが刈り取り適期となります。良質な牧草を収穫するためには、刈り遅れすることなく適期に刈ること、雨に当てずに天日で十分乾燥させること、などが重要な条件です。10数年前の日高地方では7月にはいってから牧草を収穫するのが一般的だったことを考えると、近年の早刈り傾向は、良質牧草を生産する意識が高まってきた現われであると考えられます。


写真1:馬房前の廊下に寝わらを敷き、子馬用の飼料を入れた飼い桶(後方の青いプラスチックバケツ)を吊るす一般的なクリープフィーディング。親馬と距離をおく時間も少しずつ増えることは、離乳の馴致にもなる。 写真2:ある生産牧場では、馬房の前に折りたたみ式の子馬用の枠が降りてくる。
 
 
 
 

写真3:刈り取られた直後の1番牧草。このあと、何回も反転して乾燥させ3-4日後には乾草として収穫する(6月14日撮影)。 写真4:刈られた出穂直後のチモシー(猫のしっぽに似ているので、キャッツテールとも呼ばれる)。左は、オーチャードグラス。

 

★2004.6.21

 
 先週14日に刈った採草地の牧草は、15日に降った予想外の雨で若干濡らしたものの、18日に無事収穫することができました(写真1〜6)。この採草地の一部は、日高地区の慣行的な施肥管理を行なう部分と土壌成分に基づいて設計された施肥管理を行なう部分とに分けて、土壌成分と牧草成分の経時的な変化を比較検討する試験に利用しています。これまでの成績では、土壌および牧草成分に明らかな差は認められていませんが、収量では後者の方が若干優っている傾向がありそうです。同じ試験を当場とは土壌の種類が異なる北大付属牧場(正式名称は、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター静内研究牧場)でも行っており、同様の成績が得られています。
 さて、昨年の春に当場を卒業したJRA育成馬のうちの1頭、トップオブワールド(雄3歳)が6月5日に東京競馬場で行われたユニコーンステークス(G3)競走に出走し見事優勝しました(写真7)。同馬は北海道厚真町の大川牧場の生産馬で、父シャンハイ、母トップサンキスト、母の父アサティスという血統です。平成14年8月の北海道サマーセールでJRAが735万円で購入し、平成15年4月まで当場で育成調教を行いました。栗毛の雄大な馬格で育成時(写真8)からスピード馬の素質の片鱗を見せていました。当場でのゲート練習中に前肢にけがを負うアクシデントはあったものの、それを乗り越えての優勝で育成に携わった者たちの喜びもひとしおでした。先週からは新馬戦も始まり、今春送り出したJRA育成馬たちのデビューを楽しみにしているところです。今後も「強い馬づくり」への探求を続け、トップオブワールドに続く活躍馬を育成できるよう努力していきたいと思っています。



写真1:刈り取られた牧草をテッダー(tedder:tedは草をひろげて干すという意味)で何回も反転し、天日乾燥させる。 写真2:十分乾燥した牧草
はまずレーキ(れっきとした
英語rakeは熊手の意味)で
集草する。
写真3:集草された牧草
をロールベイラーで回収
し、ロールに梱包する。
 
           

写真4:刈り取り後のさっぱりした採草地にいくつもの乾草ロール(1個の重さは約200kg)がころがる。 写真5:乾草ロールを
トラックに積み込み
倉庫へ運ぶ。
写真6:倉庫ではフォーク
リフトを操って乾草ロール
を収納していく。
           

写真7:ユニコーンステークス(1600mダート)を快勝したトップオブワールド(鞍上は四位洋文騎手) 写真8:トップオブワールド(トップサンキストの01)の卒業写真(平成15年4月撮影)

 

★2004.6.28

 
 先週、北海道南部への大雨が心配された台風6号は大きな被害を与えることなく通過してくれました。昨年8月、日高地方に甚大な被害(写真1,2,3)をもたらした台風10号以来、すっかり大雨予報には敏感になってしまったのは私だけではないでしょう。暗い記憶しかない昨年の台風に関して、勇気付けられる話題を紹介したいと思います。台風10号による大雨は日高中西部の河川氾濫を引き起こし、人だけでなく多くの馬や牛が濁流に流されたり土砂に埋まり命を落としました。新冠町美宇(びう)にある軽種馬生産牧場の1歳牝馬も濁流に飲み込まれましたが、3日後に約3km下流で奇跡的に発見されました。発見時は大きなけがもなく、のんびり草を食べていたというから驚きです。多くの馬や牛が見るも無残な姿で流木とともに海岸などに流れ着いたのに比べると、これはまさに奇跡としか言いようがありません。その馬は現在、キセキノサイクロンと名付けられ、台風から1年後の8月にホッカイドウ競馬でデビューすべく調教を積んでいるとのことです。「強運にひかれた」とはオーナーの弁、日高の新たな希望の星として元気に活躍してくれることを心から願っています。
 先週の22日から24日までの3日間、地元の道立浦河高校3年生2名が職場体験学習のために来場しました。二人には、研究馬の手入れや収放牧(写真4)、草地の調査(写真5)や草刈り、飼料の配合と給与や馬車調教の立会いなど短い時間ながら多くの体験をしてもらいました。両君とも、トレッドミルでの馬の全力疾走を目(ま)の当たりに見ることができたことを喜んでいました。彼らが将来、馬の仕事に就くかどうかは別にしても、立派な社会人として成長していく過程で今回の体験が少しでも役立つことができればと思います。
 当場では乗馬普及の一環として、浦河町立東部小学校および野深小学校の児童を対象とした乗馬学習にも協力しています(写真6、7)。育成馬が入厩する前後の比較的時間の余裕があるこの時期に集中的に行っています。馬に初めて触れる子供もいればスポーツ少年団で乗馬はお手のものという子供もいますが、馬産地に育つメリットを活かして馬の魅力をもっともっと知ってもらえたらと思います。



写真1:昨年の台風10号は
新冠の民間育成場の屋内
坂路馬場を倒壊させた

写真2:放牧地は土砂で
埋まり牧草はみえない
 

写真3:これら大量の流木
が上流から轟音とともに
流されてきたという 
           

写真4:最終日には馬を引く姿にも
余裕がでてきた
 

写真5:試験ほ場での植生調査(左2名が
浦高生、右2名は共同研究者の日高支庁
農業改良普及センターの方々)
 

写真6:高学年には大きな乗馬を使う

写真7:馬の手入れも大事だけれど・・・・

 


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