★2004.11.1

 
 北海道遺産構想推進協議会の厳密な調査により、北海道内のかけがえのない自然や建造物をそれぞれの地域で活用しながら後世に引き継ぐべき北海道遺産が27件選定され、そのひとつとして「北海道の馬文化」も指定を受けました(写真1)。ここでいう馬とは、ばん馬と日高地区のサラブレッドを指しています。ばん馬は、赤字経営ながら世界でも類を見ない「ばんえい競馬」の主役として、岩見沢、旭川、帯広、北見で活躍しており、その姿が地域の財産として引き継ぐに相応しい馬文化であると認められました。一方、日高管内の牧場風景や当場の調教施設などサラブレッドを取り巻く環境が、今後の観光資源としても価値ある馬文化であるとの評価を受けました。いずれも関係者が責任を持って発展させ後世に伝えていく努力が必要と思われます。

 先週の10月29日、胆振獣医師会および北海道家畜畜産物衛生指導協会胆振支部主催の産業動物(馬)講習会が苫小牧市にある日胆農業会館で開催されました。今回のテーマは、「サラブレッドのDOD(発育期整形外科疾患)について」であり、馬の臨床獣医師として活躍されている6名の講師が講演されました。DOD(写真2,3,4)は、急速な発育や栄養上の過不足やアンバランス、あるいは遺伝的な要因などが関与して発症する発育期特有の運動器疾患の総称であり、馬の運動機能を抑制することにより価値を低下させ、重度の場合は廃用の原因となります。今回の講習会では、日高エクアインサービスの大和先生による基調講演のほか、田上先生をはじめ社台ホースクリニックの獣医師陣による豊富なデータをもとにした講演、ハラマキファームクリニックの服巻先生による一般牧場でのDODと飼養管理に関する講演などいずれも非常に参考となるものでした。

写真1:北海道遺産の選定を伝える10月29日付けの北海道新聞。 ※拡大できます 写真2:DODのひとつ、3-7ヶ月齢ころの子馬に認められる骨端炎(症)。
 

写真3:DODのひとつ、1歳馬の飛節に認められる離断性骨軟骨症。 写真4:写真3のレントゲン写真、近年は関節鏡を用いた離断骨片を摘出する手術が一般的でありその予後は良好であることが報告された。



★2004.11.8

 
 日高地方の先週は雨も多く安定しない気候が続きましたが、まだ寒さを感じさせるまでにはいたっていません。今年生まれた当歳研究馬9頭も、離乳後の母馬のいない日々の生活にすっかりなれ、毎日元気に過ごしています(写真1)。昼過ぎから翌日の朝まで放牧地で過ごす昼夜放牧は、今月末まで続ける予定です。これまでの研究成果から、12月以降は気温の低下とともに放牧地での運動量も少なくなり、昼夜放牧のメリットが少なくなると考えられるためです。2月生まれの子馬のなかには、すでに体重が300kgを優に超えるのもいます。また、冬には馬服を着せて放牧を行うので、先日から馬房内で馬服の馴致を始めましたが、どの子馬もおとなしく着せられていました(写真2)。現在、これらの馬を使って、乳由来タンパク質が骨の活性化に及ぼす効果について検討しています。

 一方、10月20日から初期馴致にはいった1歳研究馬たちは、その後も順調にメニューを消化し、人を背に乗せて速歩ができるまでになりました(写真3)。今週からは、本格的な騎乗調教にはいっていくとともに、来年春まで週1回のトレッドミルによる比較的強い運動を負荷しながら、育成馬の適切な運動量に関する検討を行っていく予定です。
 繁殖牝馬たちもいたって元気に過ごしています(写真4)。離乳前の哺乳による子育てから開放され、来年出産する新たな生命を胎内で育んでいるところです。この繁殖牝馬たちも12月にはいると、人工照明を馬房内で一定時間あてること(ライトコントロール)にしています。これが分娩後の発情回帰やホルモン動態に及ぼす影響についても研究する予定です。

写真1:昼夜放牧中の当歳雄馬群。
 
 
写真2:馬房内での馬服馴致、2名一組で驚かせないように慎重に進める。いずれ行う心拍数測定のための胴締め馴致も兼ねている。
 

写真3:あのやんちゃな1歳馬たちが真剣に調教を受けているのを見るのは、独特の感慨がある。 写真4:放牧地の草はまだ冬枯れにはいたっていない。
 



★2004.11.15

 
 先週11日で今年のホッカイドウ競馬の全日程が終了しました。売り上げは台風の影響で1日中止になったにもかかわらず、昨年実績を2%程度上回ったようです。この背景には、コスモバルクの活躍のみならず、開催編成の見直しやミニ場外の積極的な展開など関係者の努力があったと考えられます。存続か廃止かを5年間かけて検討するという計画の4年目にあたる今年でしたが、馬産地のためにも何とか来年もさらなる売り上げ増を期待し今後も存続してもらいたいものです。

 さて、北海道は秋を過ぎいよいよ冬にはいっていきます。この時期、放牧地は緑色から褐色に変化していきますが、このような牧草には炭水化物が過剰に蓄積し、放牧馬の代謝障害の危険性を高めるという報告が、先月アメリカで行われた馬の粗飼料に関する研究会で発表されたようです。一般に、植物は太陽光線を浴びて光合成により体内で炭水化物を生成しますが、外気温が低いとその消費が低下するので植物体内での炭水化物蓄積率が高まります。また、炭水化物の蓄積率は、牧草の品種や湿度、牧草中の窒素やリン含有率などにも影響を受け、乾草収穫の際にもできるだけ炭水化物が蓄積しないような草地管理および収穫方法(適切な施肥を行った方が、好天下に短時間で乾燥させるよりは日数をかけて乾燥させた方が、炭水化物含有率を低くすることができる、など)をとる必要があると述べています。さらに、馬に給与する前に1時間程度乾草を水に浸漬することは、乾草に含まれる炭水化物の量を減らすのに効果があるとしています。馬は本来、多量の炭水化物を消化するのが不得手な動物であり、ポニーや太りやすい馬、あるいは代謝性の蹄葉炎を発症している馬にはとくに注意する必要があると述べています。
 「馬に最適な牧草とは?」という単純な疑問に対する回答もまた単純ではないようです。

写真1:昨年9月に造成した放牧地、左部分が緑色を保っているのはペレニアルライグラスが混播されているからである(写真1-3は、11月12日に撮影)。 写真2:今のところまだ元気なペレニアルライグラスだが、2-3年目を過ぎると越冬率の低下が著しくなるようだ。
 

写真3:今年9月中旬に播種した放牧地、ここにはペレニアルライグラスは混播されていないがチモシーとケンタッキーブルーグラスの若い芽は緑色を保っている(9月20日付け日誌参照)。
 



★2004.11.22

 
 生産者や繁殖関係の獣医さんにとっては春先から夏にかけての繁忙から開放されるこの時期、各種の研修会が各地で行われます。
 まず16日には新冠町のレ・コード館でスティーブン・デュレン博士(PHN社・アイダホ)による「育成馬と繁殖牝馬の飼養管理」に関する研修会が行われました(写真1)。これはアメリカの飼料を扱っている民間会社の主催で行われたもので、70名の生産者や獣医師が聴講しました。発育期の運動器疾患の予防や症状改善のために必要な飼養管理方法として、エネルギー含有量を抑えミネラルやタンパク質などは要求量を確保するペースダイエット法の紹介が行われ、参加者の興味をひいていました。

 翌17日には当場主催で、岡山大学からトマス・アコスタ先生を招いて「カラードップラ超音波装置による繁殖診断への応用」に関する研修会を当場で行いました。参加者は、日高地区の獣医師のほか帯広畜産大学の先生や学生を含む25名で、午前中はスライドを使った講義形式(写真2)、午後は実際に空胎馬と妊娠馬を使っての診断やテクニックを学びました(写真3,4)。現在当場では、日高地区の獣医師団体と共同で「軽種馬の分娩後子宮機能回復の客観的診断基準の確立に関する研究」を行っているところであり、子宮への血流状態を観察できるカラードップラ超音波装置は必須のアイテムです。アコスタ先生はその方面の専門家であり、また日本での留学期間が8年にもなるため日本語が非常に達者なので、今回の講師として最適な先生であったと思われました。研修に参加した方々の評価も上々で、今後も生産地における繁殖の研究のよきアドバイザーとして援助していただきたい先生でした。





写真1:講演するスティーブン・デュレン博士。  写真2:午前中の講義では活発な質疑も行われた。
 

写真3:実際の馬を使ったデモンストレーションは研究棟枠場で行われた。 写真4:直腸検査をしながら説明するアコスタ先生。



★2004.11.29

 
 まだ雪らしい雪は降ってはいませんが、気温は確実に低下しており、朝の放牧地の水槽には厚めの氷がはるようになってきました。先週金曜日から土曜日にかけて天気は荒れ模様との予報があり、当歳馬の昼夜放牧も金曜日をもって昼間のみの放牧に切り替えることとしました。案の定、週末は台風なみの風が吹き荒れ、当歳馬を放牧している放牧地横の大木も風のため倒れました。おまけに土曜日の朝と今朝未明には震度4の地震までくる始末でした。
 
 昨日のジャパンカップでは、コスモバルクが持ち前の根性を発揮し2着と健闘しました。この馬のタフさには本当に感心させられます。これからも道民の夢のために無事に走り続けてほしいと願うばかりです。

 先週は、来年のJRA広報用コマーシャルフィルムの作成のため、放牧シーンや洗い場での手入れシーン撮影に研究馬たちが協力しました(写真2、3)。放牧地では思ったように走ってくれず手こずったようですが、何とか撮影を終えることができました。同じような依頼は重なるもので、福岡の民放会社からも馬の放牧風景を撮影したいという依頼があり、金曜日の早朝に収録しました。

 当研究室では軽種馬育成調教センター(BTC)が行っている育成調教技術者養成研修生を対象とした講義も行っています。先週は羽田室員による「馬の運動生理学」が2日間にわたり行われました。2日目はトレッドミル運動時の心拍数の変化やV200(心拍数が200拍/分になるときの速度)測定方法などについて説明を行いました(写真4)。未来のホースマンたちに科学的育成方法の一端を紹介するのも「強い馬づくり」につながる重要な業務と考えています。





写真1:千歳空港のホッカイドウ競馬PRブースにはコスモバルクのゼッケンも展示されていた(11月28日撮影)。 写真2:洗い場での撮影を行うスタッフ。
 
 
 

写真3:写真2の撮影隊がねらう被写体は、1歳研究馬ポートスターと石井職員。 写真4:研究馬のトレッドミル運動と心拍モニターを熱心に見つめるBTC研修生たち。




Back