馬の毛色の多様性と家畜化のはじまり  

 サラブレッドの毛色は8種類だが、その他の品種を含めると馬には実に様々な毛色がある。それらの中には原種とされるモウコノウマからは想像もつかないような毛色もあるが、現在、世界中で飼養されている馬の多様な毛色は、どのように形成されたのかということにひとつの考え方を示す論文が公表された。
 ライプニッツ研究所・動物園野生生物研究センターのルドウィッヒらが行った研究は、シベリア、中欧、東欧、中国およびイベリア半島で採取された馬の骨について、毛色関連遺伝子のDNA型判定を行ってそれぞれの時代の馬における毛色の種類を判定したもの。これによると、狩猟時代と考えられる後期更新世(紀元前1万年以前)のヨーロッパおよびアジアでは鹿毛のみがみられたが、新石器時代から銅器時代(紀元前3000〜4500年頃)にかけてのイベリア半島およびヨーロッパでは黒毛が出現したとみられること、また青銅器時代(紀元前1000〜1500年頃)にはヨーロッパや中国で、栗毛のほか、サビーノやトビアノのような白斑を持つ馬が出現していたとみられることを報告している。一方、骨の発掘状況などからも、これらの毛色変異が家畜化後に出現したとみられることから、現在の馬の多様な毛色は家畜化後に人が新規な毛色を選抜することによってもたらされたと考えることができる。さらに、この考えに基づけば、馬の家畜化は5000年ほど前に起きたと考えられるが、その考え方はやはり今年発表された別の論文(Outram et al.,Science, 323:1332-5, 2009)がハミで磨り減った歯や、人が使った容器に残された馬乳の脂肪(搾乳の証拠)といった、物証から推定した馬の家畜化年代が約5500年前とされたこと(紀元前3500年頃)と一致している。

(出典: A. Ludwig et al., Science, 324, 485, 2009: 長谷川晃久, 2009. 7. 28)

 

米国におけるウマの東部馬脳炎の発生(3)  

 2009年6月24日付の総研HPのニュース記事に、米国における今年最初のウマの東部馬脳炎(EEE)の発生報告を掲載しましたが、7月27日付のProMed-mailに最新の発生報告が掲載されましたので、これまでの発生経過をまとめて以下に簡単に紹介します。
 2009年6月13日付のProMed-mailによれば、米国ジョージア州Long郡で2頭のウマがEEEに感染し、安楽死の処置が施された。6月25日付の記事では、ルイジアナ州で1頭のウマが死亡し、EEEと診断された。7月1日及び7月9日付の記事では、フロリダ州Leon郡で2頭、Clay郡で3頭、Volusia郡で1頭、ルイジアナ州IbervilleParish郡で2頭のウマがそれぞれ感染し、死亡又は安楽死の処置が施された。フロリダ州農務省関係者の発表では、フロリダ州では毎年約75頭がEEEに感染し、死亡又は安楽死の処置が施されているが、2009年の現時点におけるEEEの感染馬頭数は約27頭と算定される。7月14日付の記事では、ミズーリー州とバージニア州で各1頭のウマが感染し、死亡又は安楽死の処置が施された。2009年7月18日付の記事では、テキサス州Jasper郡とNewton郡で各1頭のウマが感染し、死亡した。2009年7月27日付の最新の記事によれば、北カロライナ州Columbus郡で1頭のウマが検査陽性となった。2009年7月現在、米国ではジョージア、フロリダ、ルイジアナ、ミズーリー、バージニア、北カロライナの6州においてEEEの発生が報告されている。なお、カナダでは2008年秋まで、過去35年間でウマのEEEの発生はわずか2例しか報告されていなかったが、2008年9月にケベック州で罹患馬が摘発されると12月31日までに16頭が感染し、死亡又は安楽死の処置が施された(その他3頭のウマがEEEと推定されている)。カナダでは本病の発生防止のために本年は厳重な対策が取られている。

参考情報
1. ProMed-mail, Archive Number 20090613.2197, 2009. 6. 13.
2. ProMed-mail, Archive Number 20090627.2332, 2009. 6. 27.
3. ProMed-mail, Archive Number 20090701.2378, 2009. 7. 1.
4. ProMed-mail, Archive Number 20090709.2454, 2009. 7. 9.
5. ProMed-mail, Archive Number 20090714.2507, 2009. 7. 14.
6. ProMed-mail, Archive Number 20090718.2558, 2009. 7. 18.
7. TheHorse.com news (http://www.thehorse.com/), Article#14520, 2009. 7. 13.

(出典:ProMed-mail, Archive Number 20090727.2646, 鎌田正信, 2009. 7. 28)

 

米国ペンシルベニア州における神経病原性EHV-1の発生  

 2009年7月24日付のTheHorse.com newsに、米国ペンシルベニア州における神経病原性ウマヘルペスウイルス1型(EHV-1)の発生報告が掲載されましたので、以下にその内容を紹介します。
 米国ペンシルベニア州農務省動物衛生及び診断サービス局の動物衛生危機管理及び情報ネットワークによって流された声明によれば、Allegheny郡で飼養されている4頭のウマがウマヘルペスウイルス1型(EHV-1)の神経症状を発症後に安楽死の処置が施された。安楽死の処置が施された3頭のウマは死後の検査によりEHV-1陽性と診断された。その後、5頭目のウマが本病の臨床症状を呈している。この施設の4つのきゅう舎には117頭のウマが飼養されており、全ての感染馬は1つのきゅう舎に入れられている。ペンシルベニア州農務省により7月20日から施設全体が公的な検疫下に置かれている。検疫は事実上臨床症状が消失してから21日目又は全てのウマが神経病原性EHV-1に対して陰性と診断されるまで継続されるだろう。当局は7月7日から起算しこの施設のウマと接触した全てのウマを追跡調査している。

(出典:TheHorse. com news, Article#14598, 2009. 7. 24, 鎌田正信, 2009. 7. 27)

 

米国における馬伝染性子宮炎の発生(25)  

 2008年12月17日付の記事で、米国における馬伝染性子宮炎(CEM)の発生を報告して以来、24回にわたりその続報を紹介しておりますが、2009年7月24日付で米国農務省公式発表のニュース記事が更新されましたので、その内容を掲載します。なお、現在までの検査対象馬は986頭(種牡馬が272頭、牝馬が714頭)で、26頭(種牡馬が21頭、牝馬が5頭)がCEM陽性、809頭(種牡馬が169頭、牝馬が640頭)がCEM陰性とそれぞれ診断され、残り177頭(種牡馬が103頭、牝馬が74頭)について検査が継続されています。
 2008年12月15日、ケンタッキー州は中央ケンタッキーの施設に飼養されている1頭のクオーターホース種牡馬がCEMの病原体であるTaylorella equigenitalis(CEM菌)に感染していることを確認した。現在までに米国農務省国立獣医学研究所(NVSL)により、1頭の去勢馬を含む合計21頭の種牡馬がCEM菌陽性として確認されている。これらの陽性種牡馬と共に、5頭の牝馬がNVSLによりCEM菌陽性と確認された。今回のCEMの発生源となる陽性馬は未だ同定されていない。今回の発生源の決定に関わる全ての活用可能な情報を追求するため、疫学調査は継続されているが、結論はまだ引き出されていない。
 21頭の陽性種牡馬と5頭の陽性牝馬に加えて、他の960頭の感染が疑われる馬についても所在が明らかにされている。これらの合計986頭の馬は、48州に所在する。合計272頭の陽性及び感染が疑われる種牡馬は31州に所在し、714頭の陽性及び感染が疑われる繁殖牝馬は46州に所在している。ハワイ州とロードアイランド州だけは感染が疑われる馬や陽性馬が1頭も認められていない。
 21頭の陽性種牡馬は7州に所在しており、ジョージア州が1頭、イリノイ州が3頭、インディアナ州が3頭、アイオア州が1頭、ケンタッキー州が4頭、テキサス州が1頭、ウィスコンシン州が8頭である。5頭の陽性牝馬は3州に所在しており、カリフォルニア州が2頭、イリノイ州が2頭、ウィスコンシン州が1頭である。検査と治療のプロトコルが未だ完了していない全ての陽性馬と全ての感染が疑われる馬については、現在検疫下に置かれるか、拘束命令下にある。
 272頭中169頭(62%)の種牡馬については、現在全ての検査と治療のプロトコルを完了し、CEM菌陰性であることが確認されている。これら現在CEM菌陰性となっている169頭の種牡馬のうちの155頭については感染が疑われたものであり、14頭については先の検査でCEM菌陽性となっていたものである。これら14頭中4頭の種牡馬はケンタッキー州、3頭はインディアナ州、3頭はウィスコンシン州、2頭はイリノイ州、1頭はジョージア州、残り1頭はテキサス州にそれぞれ所在しており、治療及び再検査後の現在はCEM菌陰性となっている。他の55頭の感染が疑われる種牡馬については、最初に採取された材料の培養では陰性であったが、CEM菌陰性と公表される前に完了すべき追加検査が要求されている。トータルで714頭中640頭(90%)の牝馬については、検査と治療を完了し、CEM菌陰性となっている。この640頭には検査と治療を完了してCEM菌陰性となった先のカリフォルニア州及びイリノイ州のそれぞれ2頭の陽性牝馬、合計4頭が含まれている。
 全体的には、986頭中809頭(82%)が現在CEMフリーであることが判明している。CEM陽性馬がいた8州中3州、すなわちジョージア、インディアナ、ケンタッキーの各州は全ての既知の陽性及び感染が疑われる馬の検査と治療を完了し、現在ではCEMフリーと考えられている。
 今回の発生調査では、ケンタッキー州に所在している4頭の陽性種牡馬はいずれも2008年の繁殖シーズン中には中央ケンタッキーの施設にいたことが確認されている。テキサス州とインディアナ州の種牡馬も同様に、2008年にはケンタッキー州の当該施設で過ごしている。ウィスコンシン州の陽性種牡馬は、ケンタッキー州にはいなかったが、これらの種牡馬のうちの4頭はいずれも2008年にケンタッキー州の施設でCEM陽性となった1頭の種牡馬とウィスコンシン州で少なくとも一繁殖シーズンを一緒に過ごしていた。ウィスコンシン州の5番目、6番目、7番目、並びに8番目の種牡馬はいずれもウィスコンシン州の4番目の種牡馬、イリノイ州の3頭の陽性種牡馬、並びにアイオア州の種牡馬が飼養されていた同じ繁殖施設で過ごしていた。アイオア州の種牡馬はその後去勢をしている。ジョージア州の陽性種牡馬は2008年にはウィスコンシン州の3頭の陽性種牡馬と一緒に過ごしていた。
 ウィスコンシン州の陽性牝馬は、同州の2番目の陽性種牡馬と交尾により繁殖を行っていた。イリノイ州及びカリフォルニア州の各陽性牝馬は、2008年に1頭の陽性種牡馬の精液を用いて人工授精により繁殖を行っていた。カリフォルニア州の2頭はいずれも人工授精によりウィスコンシン州の1番目の陽性種牡馬から感染し、イリノイ州の1番目の牝馬はインディアナ州に現在所在している1頭の陽性種牡馬から感染を受けた。イリノイ州の2番目の牝馬は同州の2番目の陽性種牡馬から2008年に人工授精により感染を受けていた。
 感染が疑われる馬とは、州及び連邦の動物衛生当局によって決定されているように、自然交配もしくは人工授精を介してCEM陽性馬と繁殖を行った馬か、或いは疫学的にCEM陽性馬と関連がある馬である。

(出典:Contagious equine metritis, newsroom, APHIS, USDA, 2009. 7. 24, 鎌田正信, 2009. 7. 27)

 

北半球におけるアフリカ馬疫ウイルス2型の最初の発生報告  

 2006年12月から翌年1月にかけてナイジェリアのポロ競技馬38頭が相次いで死亡した。患馬は急性の呼吸器症状、眼窩周囲の浮腫、流涙、鼻汁、発熱を示し、発熱当初はウマヘルペスウイルス感染症によるものと考えられていたが、中和試験およびVP2の部分分節を用いた塩基配列解析の結果、アフリカ馬疫ウイルス2型(AHSV2)であることが明らかとなった。系統樹解析によれば今回分離されたAHSV2は南アフリカやボツワナの株と近く、ワクチン株とはまったく異なるものであった。今回発生があったナイジェリアのラゴスは熱帯雨林地帯に属し非常に温暖かつ湿潤な気候で媒介昆虫の成育にも適していること、馬の検疫体制が不十分であったこと、輸送によってウマにストレスがかかっていたことなどが流行の原因の一端を担っていると考えられるが、ウイルスがもたらされたルートは不明である。ナイジェリアに南アフリカからウマが輸入された記録はなく、AHSV2罹患馬が不正な経路で輸入された可能性も否定できない。また、セネガルでもAHSV2の発生が最近報告されたが、今回報告したナイジェリアの分離株と遺伝的に近縁であるとの情報があることからそれらの起源が同一である可能性もある。

(出典:F. Fasina et al., J. Equine Vet. Sci., 28, 167-170, 2008, 坂内天, 2009. 7. 23)

 

ワクチン接種馬由来アフリカ馬疫ウイルス分離株の病原性  

 南アフリカ共和国におけるアフリカ馬疫(AHS)の制御には、複数の種類の血清型を混ぜた生ワクチン(vAHS)が用いられている。このため接種されたウマの体内で株間の分節ゲノム交換が起こり、強い病原性を有する遺伝子再集合体の出現する可能性が指摘されている。本論文では、ワクチン接種後にAHSを発病した患馬から分離した3種類のウイルス株(i32/03, i67/04, i80/04)について、健康馬(各群2〜3頭)に接種した場合の病原性、ゲノム分節の電気泳動パターンおよび塩基配列を解析し、ワクチン株や野外流行株との比較を行った。AHSウイルス3型(AHSV3)に分類されるi32/03またはi67/04接種群では、7〜14日目および35日目以降に最も高いもので256倍の中和抗体価を示した。AHSV4のi80/04接種群においても感染21日目以降、弱いながらも抗体が上昇した。臨床症状を示したのはi80/04を接種された1頭のみで、数日間の発熱にとどまった。また、i32/03、i67/04接種群では合計3頭が軽度ながらウイルス血症を示した(10 pfu/ml以下)。電気泳動パターンおよび塩基配列解析の結果、i32/03およびi67/04のいくつかの分節ゲノムは生ワクチンに含まれるvAHSV3のものとは異なり、同ワクチン中のvAHSV1または4に由来することが明らかとなった。これはi32/03およびi67/04が最初に分離された患馬の体内でvAHSV1, 3, 4の遺伝子再集合体が作られたことを示すものである。一方i80/04もvAHSV4とは明らかに異なるが、患馬がAHS流行地域に居たことおよびゲノム解析結果から、野外株との組換えウイルスである可能性が疑われた。これらの組換えウイルス株は健康馬への感染実験において強い病原性を示すことはなかったが、これらのウイルス株が最初に分離された患馬は3頭中2頭が斃死している。これら患馬の履歴を鑑みると、ワクチン接種直後に見られるAHSの発生には、出産直後や流行地域でのワクチン接種等の不適切な形でのワクチンの使用方法が原因になっているものと推察される。

(出典:B. F. von Teichman & T. K. Smit, Vaccine, 26, 5014-5021, 2008, 坂内天, 2009. 7. 23)

 

米国におけるウマの水胞性口炎の発生(3)  

 2009年6月16日付の総研HPのニュース記事で、米国における今年最初のウマの水胞性口炎(VS)の発生報告を掲載しましたが、7月21日付のOIE World Animal Health Information Database(WAHID)にニューメキシコ州におけるウマのVSの続報が掲載されましたので、これまでの発生経過を含めて以下に簡単に紹介します。
 2009年6月12日付のWAHIDに、米国では2006年以来となるウマのVSの発生報告が掲載された。罹患馬はテキサス州Starr郡の12歳のロデオ用乗馬で、5月29日に発症し鼻口部の腫脹や水泡病変などの臨床症状を示した。6月11日に国立獣医学研究所(NVSL)が競合エライザ、補体結合、ウイルス分離、ウイルス中和の各試験によりNew Jersey型ウイルスであることを確認した。6月12日には、さらにStarr郡の2頭の娯楽用乗馬がVSと診断された。その後、6月18日にニューメキシコ州De Baca郡の1頭の娯楽用乗馬が発症し、6月22日にVS陽性と診断された。6月26日にはさらに同郡の1頭の娯楽用乗馬がVS陽性と追加診断された。2009年7月21日付のWAHIDの最新情報によれば、7月14日にニューメキシコ州Valencia 郡で1頭の娯楽用乗馬が発症し、7月21日にVS陽性と診断された。この症例は今年米国のウマでVS陽性と診断された6例目である。米国では、10数年毎にVSの大きな流行が起こり、大きな流行の間には小さな発生があるとされている。

参考情報
1. OIE World Animal Health Information Database, 2009. 6. 12.
2. OIE World Animal Health Information Database, 2009. 6. 23.
3. OIE World Animal Health Information Database, 2009. 6. 29.
4. OIE World Animal Health Information Database, 2009. 7. 6.
5. OIE World Animal Health Information Database, 2009. 7. 14.

(出典:OIE World Animal Health Information Databas, 2009. 7. 21, 鎌田正信, 2009. 7. 22)

 

CEM研究:抗生物質処理精液は本病の伝播を防止できる  

 2009年7月19日付のThehorse.com newsに、ケンタッキー大学グリュク馬研究センターが現在行っている馬伝染性子宮炎(CEM)の研究成果に関するニュース記事が掲載されていましたので、以下にその概要を紹介します。
今年の秋に研究成果を公表予定であるケンタッキー大学グリュク馬研究センターの研究者達によれば、人工授精で使用される抗生物質処理精液は性交渉感染症の馬伝染性子宮炎(CEM)の伝播を防止できるらしい。
 人工授精で使用される精液添加物中の抗生物質がTaylorella equigenitalis(CEMO)の増殖を抑制するかどうかを調べるためにケンタッキー大学の研究は始められた。予備試験では、抗生物質処理精液を人工授精に使用した場合、抗生物質は感染種牡馬から牝馬へのCEMの伝播を排除することがわかった。
 この研究はケンタッキー州の数頭のクオーターホース種牡馬が2008年12月にCEM検査陽性となった直後に始まった。今日までに国内で21頭の種牡馬がCEM検査陽性となり、合計715頭の牝馬は感染が疑われている。CEMが疑われる715頭の牝馬のうち、4頭のみが臨床症状を示した。
 種牡馬は無症状保菌馬(どんな症状も示さない)であり、CEMを引き起こすCEMOを排菌する。ほとんどの感染牝馬は繁殖後約1週間目に顕著な膣浸出液を含む明確な臨床症状を示し始める。(注意:CEMOに感染した場合には、全ての牝馬が浸出液を排出するわけではない)。
 牝馬の感染には急性と慢性(保菌状態)の2つの時期がある。急性期には頻繁に外陰部から濃厚な粘液性又は乳白色の浸出液を排出し、その症状は繁殖後10日から14日以内に明確になる。保菌馬は臨床症状の有無に関わらず、陰核窩又は洞にCEMOが定着しており、これらの牝馬は細菌が除去されるまで、高い感染性を保持している。
 CEMは馬産業に対する重大な経済的損失の原因になりうる。牝馬がCEMOに感染した場合には、妊娠馬であれば胎児が流産を起こすかもしれないし、また一般的には細菌が除去されるまで妊娠することができなくなる。検査と治療は困難ではないが、非常に骨の折れる仕事である。一度細菌が除去されれば、牝馬は妊娠することができる。
 現在、CEMは連邦レベルでの届出疾病であり、輸入種牡馬と牝馬は定期的にCEMの検査がなされている。現行の検査法は、CEMOの細菌培養に基づいている。しかしながら、本菌は検査室で増殖させることは困難であり、馬がCEMO陰性の状態であることを確認するためには、繰り返し採材が要求される。
 グリュク馬研究センターで実施されたこの研究の理由は、CEMの診断を支援するため、PCR法の開発とその実証に焦点を当てている。結果は有望である。

(出典:Thehorse.com news, Article#14552, 2009. 7. 19, 鎌田正信, 2009. 7. 22)

 

米国における馬伝染性子宮炎の発生(24)  

 2008年12月17日付の記事で、米国における馬伝染性子宮炎(CEM)の発生を報告して以来、23回にわたりその続報を紹介しておりますが、7月16日付で米国農務省公式発表のニュース記事が更新されましたので、その内容を掲載します。
 2008年12月15日、ケンタッキー州は中央ケンタッキーの施設に飼養されている1頭のクオーターホース種牡馬がCEMの病原体であるTaylorella equigenitalis(CEM菌)に感染していることを確認した。現在までに米国農務省国立獣医学研究所(NVSL)により、1頭の去勢馬を含む合計21頭の種牡馬がCEM菌陽性として確認されている。これらの陽性種牡馬と共に、5頭の牝馬がNVSLによりCEM菌陽性と確認された。今回のCEMの発生源となる陽性馬は未だ同定されていない。今回の発生源の決定に関わる全ての活用可能な情報を追求するため、疫学調査は継続されているが、結論はまだ引き出されていない。
 21頭の陽性種牡馬と5頭の陽性牝馬に加えて、961頭の感染が疑われる馬についても所在が明らかにされている。これらの合計987頭の馬は、48州に所在する。合計272頭の陽性及び感染が疑われる種牡馬は31州に所在し、715頭の陽性及び感染が疑われる繁殖牝馬は46州に所在している。ハワイ州とロードアイランド州だけは感染が疑われる馬や陽性馬が1頭も認められていない。
 21頭の陽性種牡馬は7州に所在しており、ジョージア州が1頭、イリノイ州が3頭、インディアナ州が3頭、アイオア州が1頭、ケンタッキー州が4頭、テキサス州が1頭、ウィスコンシン州が8頭である。5頭の陽性牝馬は3州に所在しており、カリフォルニア州が2頭、イリノイ州が2頭、ウィスコンシン州が1頭である。検査と治療のプロトコルが未だ完了していない全ての陽性馬と全ての感染が疑われる馬については、現在検疫下に置かれるか、拘束命令下にある。
 272頭中163頭(60%)の種牡馬については、現在全ての検査と治療のプロトコルを完了し、CEM菌陰性であることが確認されている。これら現在CEM菌陰性となっている163頭の種牡馬のうちの149頭については感染が疑われたものであり、14頭については先の検査でCEM菌陽性となっていたものである。これら14頭中4頭の種牡馬はケンタッキー州、3頭はインディアナ州、3頭はウィスコンシン州、2頭はイリノイ州、1頭はジョージア州、残り1頭はテキサス州にそれぞれ所在しており、治療及び再検査後の現在はCEM菌陰性となっている。他の60頭の感染が疑われる種牡馬については、最初に採取された材料の培養では陰性であったが、CEM菌陰性と公表される前に完了すべき追加検査が要求されている。トータルで715頭中625頭(87%)の牝馬については、検査と治療を完了し、CEM菌陰性となっている。この625頭には検査と治療を完了してCEM菌陰性となった先のカリフォルニア州及びイリノイ州のそれぞれ2頭の陽性牝馬、合計4頭が含まれている。
 全体的には、987頭中788頭(80%)が現在CEMフリーであることが判明している。CEM陽性馬がいた8州中3州、すなわちジョージア、インディアナ、ケンタッキーの各州は全ての既知の陽性及び感染が疑われる馬の検査と治療を完了し、現在ではCEMフリーと考えられている。
 今回の発生調査では、ケンタッキー州に所在している4頭の陽性種牡馬はいずれも2008年の繁殖シーズン中には中央ケンタッキーの施設にいたことが確認されている。テキサス州とインディアナ州の種牡馬も同様に、2008年にはケンタッキー州の当該施設で過ごしている。ウィスコンシン州の陽性種牡馬は、ケンタッキー州にはいなかったが、これらの種牡馬のうちの4頭はいずれも2008年にケンタッキー州の施設でCEM陽性となった1頭の種牡馬とウィスコンシン州で少なくとも一繁殖シーズンを一緒に過ごしていた。ウィスコンシン州の5番目、6番目、7番目、並びに8番目の種牡馬はいずれもウィスコンシン州の4番目の種牡馬、イリノイ州の3頭の陽性種牡馬、並びにアイオア州の種牡馬が飼養されていた同じ繁殖施設で過ごしていた。アイオア州の種牡馬はその後去勢をしている。ジョージア州の陽性種牡馬は2008年にはウィスコンシン州の3頭の陽性種牡馬と一緒に過ごしていた。
 ウィスコンシン州の陽性牝馬は、同州の2番目の陽性種牡馬と交尾により繁殖を行っていた。イリノイ州及びカリフォルニア州の各陽性牝馬は、2008年に1頭の陽性種牡馬の精液を用いて人工授精により繁殖を行っていた。カリフォルニア州の2頭はいずれも人工授精によりウィスコンシン州の1番目の陽性種牡馬から感染し、イリノイ州の1番目の牝馬はインディアナ州に現在所在している1頭の陽性種牡馬から感染を受けた。イリノイ州の2番目の牝馬は同州の2番目の陽性種牡馬から2008年に人工授精により感染を受けていた。
 感染が疑われる馬とは、州及び連邦の動物衛生当局によって決定されているように、自然交配もしくは人工授精を介してCEM陽性馬と繁殖を行った馬か、或いは疫学的にCEM陽性馬と関連がある馬である。

(出典:Contagious equine metritis, newsroom, APHIS, USDA, 2009. 7. 16, 鎌田正信, 2009. 7. 21)

 

サラブレッド競走馬における高速襲歩I ストライドパラメーターに対する傾斜の影響  

 日本における競走馬の調教には上り坂がよく使用されているが、この研究では、坂路を上ることが走り方と前後肢にかかる力にどのような影響を及ぼすのかを検討していた。
 坂を上る時には、体重心を上昇させるためのパワーが要求される。このパワーは、肢が地面に着いている時に供給される。この研究では、肢に装着した加速度計とGPSシステムを使って襲歩している馬の着地および離地のタイミングを測定した。測定は6頭のウマを使用して、9-13 m/sの速度で実施した。着地および離地のタイミングから、スタンス期(一肢が着地している時間)、スイング期(一肢が空中にある時間)、ストライド頻度(一秒当たりのストライド数;一完歩の数)およびデューティファクタ(スタンス期/ストライド時間)を計算し、平地部分(0-2%傾斜)および坂路部分(8-12%傾斜)において襲歩している時の各値を比較した。前肢および後肢のスイング期は、坂路走行中は有意に減少していた。この結果、平地と比較して坂路では、ストライド頻度が速度9.5 m/sの時には2.01から2.08回/sに、速度12.5m/sの時には2.10から2.17回/sに増加していた。後肢のデューティファクタは、坂路において有意に増加し、速度9.5 m/sのときに0.31から0.32へ、速度12.5 m/sのときに0.28から0.29へと変化していた。前肢および後肢のデューティファクタおよび力積の配分から肢にかかる力の最大値を計算した。その計算の結果、坂路を走行中は、前肢にかかる垂直方向の力の最大値が低くなり、後肢にかかる垂直方向の力の最大値は高くなった。坂路においてストライド頻度が増加したことは、速歩における坂路ではストライド頻度が低下していたことと異なっていた。これらのことから坂路において体重心を上昇させるためのパワーは、ストライド頻度を増加させることにより供給されていると推測された。

(出典:K. J. Parsons et al., J. Exp. Biol., 211, 935-944, 2008: 高橋 敏之, 2009. 7. 21)

 

中国における馬インフルエンザの発生(最終報告)  

 2007年11月14日付のニュース記事に中国における馬インフルエンザの発生報告を掲載しましたが、今般、2009年7月14日付のOIE World Animal Health Information Database(WAHID)に最終報告が掲載されましたので、以下に今回の発生概要を簡単にまとめて紹介します。なお、同時期に報告されたモンゴルにおける馬インフルエンザの発生については、2009年4月10日付のニュース記事に最終報告を掲載しています。
 2007年11月5日付のWAHIDの緊急報告では、中国における馬インフルエンザの発生は2007年10月9日にカザフスタンとモンゴル西部との国境沿いにある新疆ウイグル自治区の村で始まり、Altay、Burgin、Fuhai、Fuyun、Habahe、Jemnay、Qingheの7郡で確認されました。この発生における罹患馬の頭数は130,000頭中5,515頭(4.24%)と報告されています。また、2008年2月1日付のWAHIDの報告では、2008年1月9日に甘粛省のYongdengとTianZhuで発生が確認され、3,159頭中821頭(25.99%)が罹患し、9頭(0.28%)が死亡したと追加報告されています。2009年7月14日付のWAHIDの最終報告では、新たな発生報告の記載は無く、今回の馬インフルエンザの発生は2008年7月4日に終息したことが記載されております。なお、今回実施された防止策は、検疫、移動制限、疫学調査、区域制導入、感染施設の消毒、薬浴・噴霧消毒、感染馬の治療などで、ウイルスの同定や本病の診断は、ウイルス分離、寒天ゲル免疫拡散法、血球凝集抑制試験、リアルタイムPCRで行われています。

(出典:OIE World Animal Health Information Database, 2009. 7. 14, 鎌田正信, 2009. 7. 16)

 

馬原虫性脊髄脳炎の生前診断法における抗体インデックス等の有用性  

 馬原虫性脊髄脳炎(EPM)は南米又は北米に生息するオポッサムを終宿主とする住肉胞子虫のSarcocystis neuronaS. neurona)によって引き起こされる原虫感染症である。本原虫はオポッサムの糞便中にスポロシストとして排泄され、馬が牧草などと共に経口摂取することで感染する。そしてこれらの感染馬の一部で何らかの機序が働いて原虫が中枢神経系に侵入し病変を形成することにより発症する。本病は通常、脊髄液(CSF)中に産生された特異抗体をウエスタンブロット法で検出することにより臨床診断されている。しかし、CSFの採取時に血液が混入した場合には、検査結果に血中抗体の値が強く反映されることになり、本病の診断に重大な影響を及ぼすことが知られている。そこで著者らはこれら問題点を回避できる検査方法を開発する目的で、抗Toxoplasma gondii抗体の同定のために導入された方法を応用し、新たな解析方法を検討した。
 本論文では、14頭の馬にS. neuronaのスポロシストを胃内へ経口感染させ、4頭には対照としてスポロシストを経口投与せず、感染後84日まで血漿とCSFを採取した。実験馬は全例EPMを発症しなかったが、感染後42日目までに11頭のCSF中にS. neurona特異抗体が検出された。その特異抗体が中枢神経系への感染によるものか、それとも血液等の体液由来のものかを検証するために新たな解析法を用いて検討した。すなわち、血漿又はCSF中の総IgG濃度とS. neurona特異IgG濃度をELISA及び一元放射免疫拡散法で測定し、その後CSF中のS. neurona特異IgG濃度÷血漿中のS. neurona特異IgG濃度×100(A)とCSF中の総IgG濃度÷血漿中の総IgG濃度×100(B)を算出し、最後にA÷B=抗体インデックスを求めた。その結果、S. neuronaのスポロシストの経口感染によりCSF中のS. neurona特異抗体の濃度が上昇していた11頭では、脳脊髄でS. neuronaが増殖して病変が形成された場合に想定されるようなA、 B、 抗体インデックスの数値の変化はいずれも認められず、今回のCSF中のS. neurona特異抗体は血液等の体液由来のものと判断された。以上の結果から、この抗体インデックス等についてはEPMの生前診断法への応用性が示唆されたが、馬のEPMの診断におけるこの抗体インデックス等の有用性を決定するためにはさらにEPM発症馬での追加試験が必要である。

(出典:K. A. Heskett et al., Am. J. Vet. Res., 69, 403-409, 2008, 片山芳也, 2009. 7. 14)

 

輸入馬における馬ウイルス性動脈炎の摘発事例の精密検査と検疫対応  

 2009年6月に全国公営競馬獣医師協会が発刊した全公獣協ニュース386号に、「輸入馬における馬ウイルス性動脈炎(EVA)摘発事例の精密検査と検疫対応」という特別演題が掲載されていましたので、以下にその概要を紹介します。EVAはわが国の馬群では未だ発生したことはありませんが、動物検疫所年報によれば、輸入検査では時折陽性馬が摘発されています。今回の報告は2008年1月にカナダから輸入されたカナダ産肥育用素馬111頭中110頭(99%)が農林水産省動物検疫所神戸支所でEVA抗体陽性群として摘発されたものです。
 動物検疫所では、輸入馬(種牡馬を除く)に対してはEVAワクチン未接種、未発生農場由来、中和抗体陰性(4倍未満)を輸入条件として求め、輸入検疫ではエライザ又は中和抗体陰性を確認している。今回、2009年1月にカナダから輸入されたカナダ産肥育素馬111頭は、輸入検疫時にはいずれもEVAに特徴的な臨床症状は認められなかった。輸入検疫期間中に実施したエライザ及び中和試験による血清学的検査では、輸入検疫直後には111頭中106頭(95%)が、3週間後には111頭中110頭(99%)がそれぞれ陽性となったが、群として平均抗体価の有意な上昇は認められなかった。また、輸入検疫3週間後に中和抗体が陽転した4頭では、エライザ抗体は中和抗体と同時又は約1週間早く陽転した。生前に採材した白血球や鼻腔スワブ等及び殺処分時の各種材料を用いて病原学的検査を行い、分離ウイルスについてはRT-PCRとIFAによる同定及び遺伝子解析を行った。その結果、1頭の下顎リンパ節から馬動脈炎ウイルスが分離され、シークエンス解析の結果、ワクチン株との相同性は低く、主に欧州で伝播し分離報告がなされている遺伝子型(型)に分類された。本事例は輸出国での輸出検査で陰性であったにも関わらず、輸入検疫直後に95%の馬がEVA抗体陽性で、しかもワクチン株ではない野外株が分離されたことから、1ヶ月前の輸出国での検査時期前後に自然感染し馬群内で伝播した可能性が示唆された。以上のことから、現在わが国が行っている輸出入国で行う二重検疫の重要性を再確認した。
 EVAはその昔馬インフルエンザや馬鼻肺炎とともに馬の流行性感冒の主要な原因と考えられていましたが、現在では生殖器感染が主たる感染ルートであり、呼吸器感染はそれほど重要な感染ルートではないのではないかと考える風潮があります。しかし、今回の事例は呼吸器感染による本病の伝播力の強さを十分に示すものであり、万が一わが国に本病が侵入した際にはこの点を十分考慮に入れて防疫対応を行う必要があるものと思われます。

(出典:全公獣協ニュース、42, No.386, 2009. 鎌田正信, 2009. 7. 13)

 

馬伝染性子宮炎等に関する行動規範の軽防協HPへの掲載  

 2009年7月9日付で、軽種馬防疫協議会ホームページ(HP)の「馬伝染病の資料」の項目に、イギリス、アイルランド、フランス、ドイツ、イタリアの5カ国が毎年協定して実施している馬伝染性子宮炎(CEM)、Klebsiella pneumoniae、緑膿菌に関する行動規範の2009年日本語版が掲載されました。この行動規範は、英国競馬賭事賦課公社HPに掲載されたCodes of Practice on Equine Diseasesの中のCode of Practice for CEM, K. pneumoniae and Pseudomonas aeruginosaをJRA馬事部防疫課が日本語に訳し、馬防疫用参考資料として掲載したものです。英国競馬賭事賦課公社HP(http://www.hblb.org.uk)で2009年英語版を、軽種馬防疫協議会HP(http://www.equinst.go.jp/keibokyo-homepage/)で2009年日本語版をそれぞれ見ることができます。
 本行動規範は、1977年にCEMがイギリス、アイルランド、フランスで大流行した際に初めて作成されたもので、1978年以降毎年Veterinary Recordにその概要が掲載されてきました。当初はCEMの流行防止を目的としていたため、対象疾病はCEMのみで、対象国も3カ国のみでした。しかしその後、対象疾病にはK. pneumoniae、緑膿菌、馬ウイルス性動脈炎、馬鼻肺炎、馬こう疹、馬伝染性貧血、腺疫が追加され、対象国にもドイツとイタリアが加わり現在では5カ国となっています。
 CEMが1980年にわが国で大流行し、その後長期間にわたって本病の防疫対策が継続実施されてきましたが、本行動規範は北海道日高地方の馬自衛防疫体制の確立及び実施のために参照され、現在北海道日高地方の日高家畜衛生防疫推進協議会が作成し励行しているCEM及び馬ウイルス性動脈炎に対する馬自衛防疫対策にも強く反映されています。

(出典:CEM, K. pneumoniae, 緑膿菌に関する行動規範, 馬伝染病の資料、軽種馬防疫協議会HP, JRA馬事部防疫課、2009. 7. 9, 鎌田正信, 2009. 7. 13)

 

米国における馬伝染性子宮炎の発生(23)  

 2008年12月17日付の記事で、米国における馬伝染性子宮炎(CEM)の発生を報告して以来、22回にわたりその続報を紹介しておりますが、7月7日付で米国農務省公式発表のニュース記事が更新されましたので、その内容を掲載します。
 2008年12月15日、ケンタッキー州は中央ケンタッキーの施設に飼養されている1頭のクオーターホース種牡馬がCEMの病原体であるTaylorella equigenitalis(CEM菌)に感染していることを確認した。現在までに米国農務省国立獣医学研究所(NVSL)により、1頭の去勢馬を含む合計21頭の種牡馬がCEM菌陽性として確認されている。これらの陽性種牡馬と共に、5頭の牝馬がNVSLによりCEM菌陽性と確認された。今回のCEMの発生源となる陽性馬は未だ同定されていない。今回の発生源の決定に関わる全ての活用可能な情報を追跡するため、疫学調査は継続されているが、結論はまだ引き出されていない。
 21頭の陽性種牡馬と5頭の陽性牝馬に加えて、960頭の感染が疑われる馬についても所在が明らかにされている。これらの合計986頭の馬は、48州に所在する。271頭の陽性及び感染が疑われる種牡馬は30州に所在し、715頭の陽性及び感染が疑われる繁殖牝馬は46州に所在している。ハワイ州とロードアイスランド州だけは感染が疑われる馬や陽性馬が1頭も認められていない。21頭の陽性種牡馬は7州に所在しており、ジョージア州が1頭、イリノイ州が3頭、インディアナ州が3頭、アイオア州が1頭、ケンタッキー州が4頭、テキサス州が1頭、ウィスコンシン州が8頭である。5頭の陽性牝馬は3州に所在しており、カリフォルニア州が2頭、イリノイ州が2頭、ウィスコンシン州が1頭である。所在が明らかになった全ての陽性馬と全ての感染が疑われる馬については、現在検疫下に置かれるか、拘束命令下にある。検査と治療のプロトコルは全ての所在が明らかとなった馬に対して実行されている。
 271頭中143頭(53%)の種牡馬については、現在全ての検査と治療のプロトコルを完了し、CEM菌陰性であることが確認されている。これら現在CEM菌陰性となっている143頭の種牡馬のうちの132頭については感染が疑われたものであり、11頭については先の検査でCEM菌陽性となっていたものである。これら11頭中4頭の種牡馬はケンタッキー州に、3頭はインディアナ州に、2頭はウィスコンシン州、1頭はジョージア州、残り1頭はテキサス州にそれぞれ所在しており、治療及び再検査後の現在はCEM菌陰性となっている。他の67頭の感染が疑われる種牡馬については、最初に採取された材料の培養では陰性であったが、CEM菌陰性と公表される前に完了すべき追加検査が要求されている。トータルで715頭中592頭(83%)の牝馬については、検査と治療を完了し、CEM菌陰性となっている。この592頭には検査と治療を完了してCEM菌陰性となった先のカリフォルニア州及びイリノイ州のそれぞれ2頭の陽性牝馬、計4頭が含まれている。全体的には、ジョージア、インディアナ、ケンタッキーの各州は現在全ての既知の陽性及び感染が疑われる馬の検査と治療を完了し、現在CEMフリーと考えられている。
 ケンタッキー州に所在している4頭の陽性種牡馬はいずれも2008年の繁殖シーズン中には中央ケンタッキーの施設にいた。テキサス州とインディアナ州の種牡馬も同様に、2008年にはケンタッキー州の当該施設で過ごしている。ウィスコンシン州の陽性種牡馬は、ケンタッキー州にはいなかったが、これらの種牡馬のうちの4頭はいずれも2008年にケンタッキー州の施設でCEM陽性となった1頭の種牡馬とウィスコンシン州で少なくとも一繁殖シーズンを一緒に過ごしていた。ウィスコンシン州の5番目、6番目、7番目、並びに8番目の種牡馬はいずれもウィスコンシン州の4番目の種牡馬、イリノイ州の3頭の陽性種牡馬、並びにアイオア州の種牡馬が飼養されていた同じ繁殖施設で過ごしていた。アイオア州の種牡馬はその後去勢をしている。ジョージア州の陽性種牡馬は2008年にはウィスコンシン州の3頭の陽性種牡馬と一緒に過ごしていた。
 ウィスコンシン州の陽性牝馬は、同州の2番目の陽性種牡馬と交尾により繁殖を行っていた。イリノイ州及びカリフォルニア州の各陽性牝馬は、2008年に1頭の陽性種牡馬の精液を用いて人工授精により繁殖を行っていた。カリフォルニア州の2頭はいずれも人工授精によりウィスコンシン州の1番目の陽性種牡馬から感染し、イリノイ州の1番目の牝馬はインディアナ州に現在所在している1頭の陽性種牡馬から感染を受けた。イリノイ州の2番目の牝馬は同州の2番目の陽性種牡馬から2008年に人工授精により感染を受けていた。
 感染が疑われる馬とは、州及び連邦の動物衛生当局によって決定されているように、自然交配もしくは人工授精を介してCEM陽性馬と繁殖を行った馬か、或いは疫学的にCEM陽性馬と関連がある馬である。

(出典:Contagious equine metritis, newsroom, APHIS, USDA, 2009. 7. 7, 鎌田正信, 2009. 7. 8)

 

日本における馬インフルエンザの発生(最終報告)  

 2007年8月17日付の総研HPのニュース記事でわが国における馬インフルエンザの発生について初めて紹介し、その後9回にわたり報告しましたが、今般、2009年7月2日付のOIE World Animal Health Information Database (OIEWAHID)に最終報告が掲載されましたので、以下にその概要を簡単に紹介します。なお、OIEへの最初の緊急報告は2007年8月28日付で行われ、その後最終報告を含めて10回にわたり報告されています。
 日本では、1971年から1972年にかけて第1回目の馬インフルエンザの発生があったが、2007年8月に36年ぶりに馬インフルエンザが発生した。トータルで2,512例の感染又は感染が疑われるウマが33都道府県で報告された。今回の馬インフルエンザについては2008年7月1日に北海道で報告されたものが日本での最終報告である。本病の防疫対策によりその後日本の如何なる場所でも発生報告はない。OIE Terrestrial Animal Health CodeのChapter 1.4に準拠した疫学監視が、過去12ヶ月間にわたって日本では励行されており、同CodeのChapter 12.7.3に準拠し、日本は、2009年7月1日以降馬インフルエンザがフリーの状態を再び取り戻したことを宣言する。なお、今回の馬インフルエンザの発生源又は最初の感染源は不明であり、2007年8月17日に初めて馬インフルエンザの発生が確認された。また、発生対応として実施した対策は、検疫、国内の移動制限、疫学調査、感染きゅう舎や施設の消毒、感染馬(発症馬)の治療である。

(出典:OIE World Animal Health Information Database, 2009. 7. 2, 鎌田正信, 2009. 7. 7)

 

平成21年度軽種馬防疫協議会専門委員会の開催  

 軽種馬防疫協議会は軽種馬の自衛防疫の推進を図り、馬の伝染性疾病の予防及び蔓延の防止を目的として1972年に設立されたわが国最大の馬自衛防疫組織で、軽種馬関係団体以外の乗用馬や重種馬などの各種関係団体も参加して構成されています。毎年少なくとも年一回は国や都道府県の専門委員を始め、各馬関係団体の専門委員が参加して専門委員会が開催され、馬自衛防疫体制、防疫措置、輸出入検疫、防疫研究、情報伝達、防疫思想の普及などについて話し合いが行われます。今般、平成21年度軽種馬協議会専門委員会が2009年6月10日にJRA六本木事務所で開催されましたので、馬感染症に関する目新しい内容について以下に簡単に紹介します。
 馬インフルエンザ:2007年には32都道府県で2,140頭が、2008年には13都道県で360頭が馬インフルエンザ陽性と届けられた。中央競馬では栗東トレーニングセンターの2008年5月23日が、地方競馬では大井競馬場及び笠松競馬場の2008年6月9日が、その他では釧路地区の2008年7月1日が最終発生報告である。OIEの規則によれば、適切な調査を継続し国内での発生が1年間全くない場合には、馬インフルエンザ清浄国と宣言可能である旨の説明がなされた。
 馬伝染性子宮炎:2005年5月以降に摘発された馬伝染性子宮炎陽性馬は1頭もなく、丸4年間にわたってこの状態が継続されている。現在馬防疫検討会の馬伝染性子宮炎清浄度評価専門会議が開催され、清浄化宣言の時期や清浄化宣言後の検査方法について検討が行われている。
 馬パラチフス:馬パラチフス清浄化対策推進事業が継続実施中で、平成20年10月に岩手県で馬パラチフスによる流産が3件報告された。サーベランス事業では2,256頭について検査を行い、淘汰事業では38頭(北海道が11頭、岩手が27頭)の淘汰を行った。なお、事業実施主体の名称が全国家畜畜産物衛生指導協会から中央畜産会衛生指導部に変更となった。
 その他:新たに作成した馬インフルエンザワクチンは2007年の流行時に茨城県で分離されたイバラキ株(OIE推奨のフロリダ亜系統株)を組み入れたもので、今年の秋に市販化の予定である(馬インフルエンザワクチン接種啓発用リーフレットを作成し配付)。また、健康手帳の各種証明貼り付け欄のページ数を増加し、マイクロチップ埋め込み証明等の貼り付けも対応できるようにした。

(出典:平成21年度軽種馬防疫協議会専門委員会資料及び議事録, 2009. 6. 10, 鎌田正信, 2009. 7. 2)

 

Lawsonia intracellularisによるウマの増殖性腸炎の疫学調査  

 Lawsonia intracellularis (L. intracellularis) は湾曲ないしS字状を呈するグラム陰性小桿菌で、細胞内寄生細菌であることから組織培養を用いて菌分離を行う必要がある。本菌はブタの増殖性腸炎(PPE)の原因菌としてわが国でもよく知られているが、ブタ以外にもウマ、シカ、ハムスター、モルモット、マウス、ウサギ、キツネ、イヌ、フェレット、類人猿、ダチョウなどの多くの種類の動物に経口感染することが確認されている。ウマにおいてもブタと類似したEPEを引き起こすが、ウマの本病に関する詳細かつ系統的な調査研究は少ない。本論文はEPEの発生牧場における疫学調査成績についての報告である。EPEはこれまでに北アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなどで報告されている。離乳後の子馬が感染し易く、体重減少、昏睡、沈鬱、発熱、低蛋白血症による皮下の水腫、下痢、疝痛などの症状を呈する。本菌の感染は血清中の特異抗体をELISAで検出することにより確認でき、診断は感染子馬の糞便サンプルからのL. intracellularisの分離培養あるいは遺伝子を検出することによりなされる。また病理学的には肉眼的に回腸などにおける粘膜の肥厚が見られる。組織学的には小腸粘膜下組織の腸陰窩は増生し、同部の上皮細胞の管腔側の細胞質内に存在するL. intracellularisがワルーチンスターリー染色や免疫組織化学染色などで観察される。
 本論文の疫学調査は米国カリフォルニア州の2つのEPE発生牧場の4ヶ月から9ヶ月齢の子馬について実施された。第一牧場では1頭の子馬がEPEを発症し、その1週後に発症子馬を含む11頭から血液と糞便が採取された。第二牧場では5頭の子馬がEPEを発症し、最終発生後6週目に発症子馬を含む91頭から、また、その2ヵ月後に発症子馬を含む65頭から、それぞれ血液と糞便が採取された。調査期間中には、すべての子馬でEPEの臨床症状は見られなかったが、血清中のL. intracellularis抗体は第一牧場では5/11頭(45.5%)、第二牧場では一回目検査で27/91頭(29.7%)、2回目検査で22/65頭(33.8%)がそれぞれ陽性であった。第二牧場の5頭のEPE発症子馬の抗体価は1頭では2回とも同じ値を示したが、4頭では1/2に低下していた。糞便のPCR検査ではL. intracellularis 遺伝子はすべて陰性であった。以上の結果から、今回の調査では約30%の子馬がL. intracellularisに感染していたが、EPEを発症した子馬は少数であった。発症要因として、ブタでは離乳、輸送、飼育スペース、免疫不全、栄養不良、寄生虫などが関連していると言われているが、今回の調査では発症要因は明らかにされていない。しかし、第二牧場の調査結果ではEPE発症子馬のL. intracellularis抗体は2ヶ月後には低下傾向を示したが、他の子馬のL. intracellularis抗体陽性率は低下していないことから、不顕性感染により本菌が馬群間で持続的に伝播している可能性が考えられた。治療にはタイロシン、チアムリンおよびクロルテトラサイクリンなどの抗生剤が有効で、米国ではブタ用のワクチンも使用されている。しかし、L. intracellularisは不顕性感染により広がる可能性が高いことから、ウマにおいても飼養管理上注意をしなければならない感染症の一つと考えられた。

(出典:N. Pusterla et al., Vet. Rec., 163, 156-158, 2008, 片山芳也, 2009. 7. 2)

 

 
 

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