米国フロリダ州における馬ピロプラズマ病の発生経過 
 

 馬ピロプラズマ病はTheileria equiT.equi)とBabesia caballiB.caballi)によって引き起こされるダニ媒介性の馬の原虫病で、中央及び南アメリカ、アフリカ、アジア、南ヨーロッパなどの熱帯及び亜熱帯地域では経済的に重要な疾病である。米国、カナダ、日本、英国、オーストラリア、アイスランド、アイルランドは、馬ピロプラズマ病の清浄国と認識されており、これらの国では馬ピロプラズマ病の侵入を防ぐために、厳重な取締りのための輸入規制を設けている(日本では、家畜伝染病に指定されている)。
 2008年8月15日に、清浄国の一つである米国フロリダ州農務省及び消費者サービス事務局は、同州のManatee郡における馬ピロプラズマ病の発生を報告した。米国における本病の発生は、1988年以来といわれている(実際には、2004年に米国インディアナ州で1頭の陽性馬が摘発されている)。これらの発生初期の情報については、本年8月15日付の軽防協ニュース速報(号外)に掲載されているので、参照していただきたい。なお、発生経過は逐次報告されているものの、終息宣言が出されていないため、発生頭数を含めて最終的な数字は正式には確認できていないが、12月3日までの情報に基づいてその経過概要を以下に紹介する。
 本年8月15日にフロリダ州のManatee郡のクオーターホース調教・生産牧場で馬ピロプラズマ病の発症馬が1頭(7歳、クオーターホース、セン)確認され、引き続き行われた検査で同じ棟に飼養されていた非発症馬の4頭も陽性馬として摘発された。その後、同施設及び陽性馬と直接或いは間接的に接触のあった馬について精力的に追跡調査が行われた。現在までのところ、今回の発生では、フロリダ州の5つの郡にある25施設の約200頭の馬が検査対象となり、7施設で飼養されていた28頭が馬ピロプラズマ病と診断されている。各郡における陽性馬頭数はManatee郡が5頭、DeSoto郡が1頭、Polk郡が7頭、Lake郡が6頭、Dade郡が9頭であった。12月3日現在、検疫中の施設は2施設のみであり、9月17日以降は新規の陽性馬は摘発されていない。
 今回の発生原因については、疫学的な解析結果から次のような説明がなされている。2005年に馬ピロプラズマ病の汚染国であるメキシコから5頭の馬がフロリダ州に輸入され、今回最初に摘発された馬が飼養されていた施設に直接導入された。それらの馬は馬ピロプラズマ病に罹患していたものと思われ、この施設で継続飼養されていた2頭の馬から同施設内で今回最初に摘発された馬に感染したものと推測されている。この最初に摘発された馬は18ヶ月前に購入されもので、過去に汚染国から輸入されたり、汚染地域へ輸送された経歴がないことから、同施設において馬ピロプラズマ病の慢性保菌馬となったものと考えられる。この保菌馬から他の馬への感染は、血液の移入のために行われた採血や注射行為を介して起きたもので、同施設内の他の馬に汚染が広がった直接の原因と思われる。今回摘発された7施設の全ての陽性馬はManatee郡の最初に摘発された馬や施設などとの間に密接な結びつきが確認されており、疫学的な因果関係は実証されていると考えられる。
 今回実施された疫学調査では、外来種のダニは全く分離されておらず、約60種類のカクマダニ(Dermacentor)属のダニが捕獲されたものの、馬ピロプラズマ病の原虫は分離されていない。このことから、フロリダ州農務省は今回の発生における原因原虫であるT.equiの伝播は、自然感染経路のダニ媒介性のものではなく、注射器や針を共通に用いたことによる人為的なものであると結論づけている。なお、今回感染した全ての馬は、地方レベルのクオーターホースレースサーキットに所属するか、この産業に直結した系列のものである。
 以上のように、今回の米国フロリダ州のクオーターホース馬群における馬ピロプラズマ病の発生は、感染馬の摘発を始め、感染源や感染経路の特定などが終了し、ほぼ終息したものと思われる。ただし、最初の感染源となった2頭と一緒にメキシコから輸入された3頭の馬のその後の追跡調査については詳しい説明がなく、馬ピロプラズマ病の清浄国としての米国には未だ疑問符がついたままといえる。

参考情報
1. ProMED-mail post (http://www.promedmail.org.), No. 20080819.2579.
2. ProMed-mail post (同上), No. 20080823.2626.
3. TheHorse.com News (http://www.thehorse.com/), Article#12575, 2008. 8. 25.
4. TheHorse.com News (同上), Article#12610, 2008. 9. 1.
5. TheHorse.com News(同上), Article#12668, 2008. 9. 10.
6. TheHorse.com News(同上), Article#12738, 2008. 9. 22.
7. TheHorse.com News(同上), Article#12792, 2008. 9. 29.
8. TheHorse.com News(同上), Article#12886, 2008. 10. 13.
9. TheHorse.com News(同上), Article#13206, 2008.12. 3.

(総研栃木支所 鎌田正信、2008. 12. 16)

 
 

Back