新型インフルエンザの流行とウマへの感染の可能性
 

 2009年4月末にメキシコ及びアメリカ合衆国でヒトにおける新型インフルエンザの発生が確認され、発生状況が世界的に報じられると、即応する形でHorsetalk-International horse newsにウマや他の動物への感染の可能性を論じている数編のニュース記事が矢継ぎ早に掲載されました。そこで、JRA総研栃木支所の山中隆史研究役にこれらの情報を参考にして、「新型インフルエンザの流行とウマへの感染の可能性」について簡単な情報提供をお願いしましたので、以下に掲載します。
 4月24日に世界保健機構(WHO)から、発生報告が公式に為されてからというもの、日本で新型インフルエンザに関する報道が為されない日はない。5月14日時点のWHOの発表によると、33カ国で、60人の死亡例を含む6497人の感染例が報告されている。なお、本疾病のことを、WHOは“The new Influenza A (H1N1)”、The New York Times 誌は“Swine flu”、日本の厚生労働省および報道機関は“新型インフルエンザ”など様々な呼び方をしているが全て同じものである。
 元来、ブタは、呼吸器粘膜の表面にヒトやトリが有する両方のタイプのシアル酸からなるインフルエンザウイルスのリセプターを有していることが知られていた。このため、ブタはヒト由来およびトリ由来のインフルエンザウイルスの両方に感染しやすく、インフルエンザウイルスが体内で交雑しやすい“mixing vessel”として警戒されてきた。事実、1998年の北米では、ヒト香港型(H3N2)、トリインフルエンザ(H4N5, H3N2)、およびブタの間で流行していたH1N1ウイルスの3つが、ブタの体内で交雑し、トリプル遺伝子交雑ブタウイルス(H3N2)が誕生した。その後、2003-2005年ごろにかけて、そのトリプル交雑ブタウイルス(H3N2)が、北米のブタの間で流行していたH1N1ウイルスと、再び交雑してH1N2ウイルスが誕生したことが知られている。そして、そのH1N2ウイルスが、さらに、ヨーロッパのブタの間で流行していたH1N1ウイルスと交雑して、最近になって新しいH1N1ウイルスが誕生した。このH1N1ウイルスこそが、最近になってヒトに飛び火し、現在、問題となっている“新型インフルエンザウイルス”である。
 では、同ウイルスがウマへの感染性および病原性を有しているか否かについてであるが、残念ながら、科学的なデータは殆どないと言わざるを得ない。しかしながら、ウマの呼吸器粘膜に存在するリセプターは、ヒトおよびブタのものとは、シアル酸の結合様式および分子種が異なっていることが知られており、このことが“ある一定”の壁として機能し、容易には感染しないのではないかと筆者は推測している。
 伝染病を考える上で、根拠のない過度の楽観や悲観は禁物ではあるが、世界獣疫事務局のリファレンスラボラトリーのChambers博士も、HORSE.comにおいて、筆者同様、ウマがブタインフルエンザウイルスに感染することは不可能ではないかと推測している。

参考情報
1. Horsetalk-International horse news, 2009. 5. 1 (No evidence yet on whether swine flu affects other animals).
2. Horsetalk-International horse news, 2009. 5. 1 (Word expected in days on whether new flu can infect horses)
3. Horsetalk-International horse news, 2009. 5. 4 (Influenza: Itユs all in the genes)
4. Horsetalk-International horse news, 2009. 5. 4 (Can my cat, dog and horse catch swine flu ?)

(JRA総研栃木支所 山中隆史、2009. 5. 14)

 
 

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