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近年欧米ではウマヘルペスウイルス1型(EHV-1)に起因するウマの神経疾患の発生が増加傾向を示し、競馬や馬術競技が中止される事例も報告されるなど、大きな問題となっています。幸いなことに、わが国ではそのような傾向は認められていませんが、本病の動向には特別な注意が必要と思われます。今般、ウマヘルペスウイルスの神経疾患というタイトルのレビューについて、JRA競走馬総合研究所栃木支所分子生物研究室の辻村行司主査にトピックスとして内容の紹介を依頼しましたので、以下にその紹介記事を掲載します。
EHV-1感染による神経疾患は、古くからよく知られているものですが、近年“新興感染症”として注目を集めています。ワクチンの普及や適切な蔓延防止措置の実施などに伴い、多くの馬産国でEHV-1感染による流産の発生頭数が減少傾向にあるのに対し、アメリカ、イギリスおよびヨーロッパ諸国においては、神経疾患の報告がここ数年頻繁になされています。最近行われたEHV-1の病原性に関する分子生物学的研究により、神経疾患の症例から分離されるEHV-1株の大半がDNAポリメラーゼ遺伝子に変異を持つことが明らかとなりました(Nugent
et al. 2006)。この発見は、EHV-1感染による神経疾患に対する大きな関心を引き起こすとともに、変異を検出するための検査法の開発を促しました(Allen
2007)。また、ケンタッキー大学Gluck Center for equine researchのAllen教授らは、ポリメラーゼ遺伝子変異株に感染したウマでは、そうでない株に感染したものと比べて、血中のウイルス量が増加し、その検出期間も延びることを証明しました(Allen
and Breathnach 2006)。EHV-1はまず、鼻咽頭、気管、気管支などの上皮で増殖した後、上気道の付属リンパ節または上気道周辺のリンパ節に移行し、リンパ球随伴性のウイルス血症として全身に広がります(Coggins
1979; Bryans 1980; Kydd et al. 1994)。したがって、変異株の持つ血中で増殖しやすい性質は、その神経病原性の強さと関係するのではないかと考えられています。また、同教授のグループは、ケンタッキー州で飼養されている繁殖牝馬について疫学調査を実施し、この変異株が約10%という高い割合でこれらの馬群に潜伏感染していることを明らかにしました(2008年ニュース記事『ケンタッキー州の繁殖牝馬における潜伏感染ウマヘルペスウイルス1型に関する調査』)。現在、多くの研究者がこの変異に注目しており、様々な角度から検証を行っています。ただし、ここで注意すべきなのは、神経疾患から分離されたEHV-1株の全てがポリメラーゼ遺伝子変異株ではない点です。したがって、変異を持たない株についても、神経疾患を引き起こす可能性があるとして警戒する必要があると考えられます。なお、幸い日本では、今のところEHV-1感染による神経疾患の発生は大変まれです。また、神経病原性が強いとされるポリメラーゼ遺伝子変異株の国内への蔓延も確認されておりません。しかしながら、欧米で突然増え始めた原因が明らかでないことから、日本でも同様の状況が出現する可能性を否定することはできません。したがって、日本においても、この感染症の発生動向については、十分な注意を払う必要があるでしょう。
参考文献
1. G. P. Allen (2007): Development of a real-time polymerase
chain reaction assay for rapid diagnosis of neuropathogenic strains
of equine herpesvirus-1. J. Vet. Diagn. Invest., 19, 69-72.
2. G. P. Allen & C. C. Breathnach (2006): Quantification
by real-time PCR of the magnitude and duration of leucocyte-associated
viraemia in horses infected with neuropathogenic vs. non-neuropathogenic
strains of EHV-1. Equine Vet. J., 38, 252-257.
3. J. T. Bryans (1980): Herpesviral diseases affecting reproduction
in the horse. Vet. Clin. North Am. Large Anim. Pract., 2, 303-312.
4. L. Coggins (1979): Viral respiratory disease. Vet.Clin.North
Am.Large Anim.Pract., 1, 59-72.
5. J. H. Kydd et al. (1994): Distribution of equid herpesvirus-1
(EHV-1) in the respiratory tract of ponies: implications for
vaccination strategies. Equine Vet. J., 26, 466-469.
6. J. Nugent et al. (2006): Analysis of equid herpesvirus 1 strain
variation reveals a point mutation of the DNA polymerase strongly
associated with neuropathogenic versus nonneuropathogenic disease
outbreaks. J. Virol., 80, 4047-4060.
(出典:J. R. Gilkerson,
Equine Vet. J., 40, 102-103, 2008, 辻村行司, 2009. 6. 1)
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