馬パラチフス清浄化対策推進事業の概要とその進捗状況 
 

 馬パラチフス清浄化対策推進事業は2007年に始まり、本年で3年目を迎えます。先日、7月31日に本年度第1回目の馬パラチフス清浄化対策技術検討委員会が開催されましたので、本委員会のメンバーである競走馬総合研究所栃木支所の丹羽和秀主査に依頼し、本事業の概要とその進捗状況について簡単に紹介してもらいました。

1.馬パラチフス清浄化対策推進事業の概要

 馬パラチフスは,サルモネラ属菌の1血清型である馬パラチフス菌により流産などが引き起こされる伝染病である。本症は,北米やヨーロッパなどでの発生はないが,日本では戦前から1960年代にかけて軍馬や農耕馬を中心に数多く発生がみられ,馬の生産に大きな被害を与えてきた。しかし,近年ではそれらの用途の馬の減少とともに本症の発生も激減し,現在では北海道の一部地域での発生に限られている。馬パラチフス菌が他のサルモネラ属菌と異なりウマ科動物のみに病原性を示す特性を持ち,尚かつ他の動物や環境中では長期間にわたって生息できないと推考されることから,一度本症の清浄化に成功すれば、わが国のような島国では、長期間にわたってその状態が保たれる可能性が高い。このようなことから、近年では発症および保菌馬の摘発及び淘汰による日本国内における清浄化の実現に対する期待が徐々に高まってきた。
 このような背景のなかで,日本における馬パラチフスの清浄化を推進することを目的とし,2007年度より中央畜産会衛生指導部(旧全国家畜畜産物衛生指導協会)が事業主体となり「馬パラチフス清浄化対策推進事業」が実施されている。馬パラチフスに罹患した馬の一部は長期にわたって体内に菌を保有(保菌)し、感染源となる可能性が高いため,本事業では馬パラチフスに感染した疑いがある馬(馬パラチフス菌に対する抗体を保有する馬)の摘発及び淘汰が清浄化のために最も有効な手段と考え,馬パラチフス菌常在地と考えられる北海道の一部地域や本症の発生が見られる地域での抗体保有馬の摘発及び淘汰を実施している。また,事業の過程で得られる様々なデータを科学的に分析し,事業へのフィードバックと本病の病態を明らかにする取り組みも行われている。下記に本事業の主な概要とその進捗状況を紹介する。

1)馬パラチフス清浄化対策技術検討委員会の開催
 学識経験者からなる技術検討委員会を年3回開催し,事業の運営・実施方針等について科学的な検証ならびに技術的な支援を行う。これまでにサーベイランスに用いる血清診断法(マイクロ凝集反応法)の検討と導入,事業の実施中に流産等の馬パラチフスの発生が見られた4地域(日高,遠野,根室,網走)における防疫対応の支援と調査などを行っている。

2)馬パラチフス抗体保有馬のサーベイランスによる摘発及び淘汰
 本事業の中核をなす事業であり,馬パラチフスが常在すると考えられる地域(北海道の釧路と根室),馬パラチフスの発生があった非常在地域(北海道の日高と網走、岩手県の遠野)およびこれらの地域と馬の交流が活発で疫学監視が必要と判断された地域(青森県、熊本県)においてサーベイランスを実施し,抗体保有馬の摘発及び淘汰を実施している。また,馬パラチフスの発生時に実施される病性鑑定によって陽性と判定された馬についても淘汰を行っている。
 これまでの2年間の事業で,延べ2,930頭に対するサーベイランスの実施(2009年3月末現在)と淘汰奨励馬と判断された47頭の馬の淘汰,馬パラチフスの発生が認められた4地域(日高,遠野,根室,網走)の防疫対応への支援および調査を行った。

 本事業の開始後,事業対象外の地域で馬パラチフスの発生が相次いで報告されたが,これらの地域における防疫対応にも適宜本事業の制度が活用され,各地域における本病の終息に貢献している。これらの成果は,清浄地域で新たに見られた本病の発生に対するものであるが,その延長線上には日本国内における本病の清浄化があり、これらの成果の活用による清浄化の更なる進展も期待できる。

2.2009年第1回馬パラチフス清浄化対策推進事業技術検討会の開催

 2009年7月31日に本年度の第1回となる技術検討会が開催された。会議では,昨年度の実施状況の報告,本年度の事業計画,本事業の馬パラチフス抗体保有馬のサーベイランスに導入した血清診断法の検証等の議題について議論が行われた。このなかで科学的に興味深い2議題について紹介する。

1)根室および釧路で分離された馬パラチフス菌の解析
 2008年12月に根室,2009年2月に網走で発生した馬パラチフスの際に分離された菌株の解析を行ったところ,これらの株は生化学性状,プラスミド型,パルスフィールドゲル電気泳動型などの性状が従来から日本で分離されている株と一致した。過去の調査においても日本各地で分離された株のこれらの性状はほぼ一致しており,今回の解析結果とも併せて,馬パラチフスが海外からの侵入した形跡がないこと,日本国内での馬パラチフスの発生は特定の型によってのみ起こっていること(あるいは日本には特定の型のみしか存在しない可能性)が強く示唆された。

2)2-メルカプトエタノール(2-ME)を用いたマイクロ凝集反応法
 本事業のサーベイランスでは,年間に2000頭以上の検査を実施するため,多頭数の検査に適したマイクロプレートを用いた血清診断法(マイクロ凝集反応法)を導入している。また,2008年からは,主にIgM抗体によって引き起こされると考えられる非特異反応を抑えてより特異性を高めるために,予め2-MEを使って血清中のIgM抗体を不活化してから検査を行う方法(2-MEマイクロ凝集反応法)も活用されている。この2-MEの使用について馬パラチフス実験感染馬,常在地域の馬,清浄地域と考えられる競走馬のトレーニング施設の馬を含む計1,300検体に上る血清サンプル用いて検証し,その有効性を示した結果について報告が行われた。

(JRA総研栃木支所微生物研究室 丹羽秀和 2009. 8. 18)

 
 

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