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馬ピロプラズマ病(EP)はTheileria equi(T.equi)とBabesia
caballi(B.caballi)によって引き起こされるダニ媒介性のウマ科動物の原虫病で、ウマ、ロバ、ラバ、シマウマが感染する。本病は主としてダニや汚染した注射針、輸血などによってウマに伝播し、ウマから他のウマには直接伝播しない。感染馬は7日から22日後に元気消沈、発熱、貧血、黄疸を呈する粘膜、血小板の減少などを伴う臨床症状を呈する。本病はまた、被毛の粗励化、便秘、疝痛を引き起こす。その中間型では、衰弱と食欲の減退を引き起こす。幾らかのウマは本病の慢性キャリアーとなる。
EPは、中央及び南アメリカ、アフリカ、アジア、南ヨーロッパなどの熱帯及び亜熱帯地域では経済的に重要な疾病で、風土病の一つとして発生している。一方、米国、カナダ、日本、英国、オーストラリア、アイスランド、アイルランドは、EPの清浄国と認識されており、これらの国ではEPの侵入を防ぐために、厳重な取締りのための輸入規制を設けている(日本では、家畜伝染病に指定されている)。ところが、その清浄国の米国とアイルランドで、2008年から2009年にかけてEPの複数の発生があり、特に米国についてはEPの清浄国としての立場に疑問が投げかけられている。ここでは、米国における最近のEPの発生概要と2009年10月に掲載された血清疫学調査報告の概要を紹介し、米国の馬群におけるEPの汚染状況について考察を加えてみた。
2008年8月に、米国フロリダ州でEPの発生が報告された。米国における本病の発生は、1988年以来といわれている(実際には、2004年に米国インディアナ州で1頭の陽性馬が摘発されている)。この発生では、フロリダ州の25施設が検疫下に置かれ、201頭のウマが検査され、最終的に7施設の20頭のウマがEP陽性と診断された。発生源または感染源は2005年にメキシコから輸入された5頭のうちの2頭と考えられているが、感染が疑われる他の3頭については疫学調査で行方を確かめることができなかった。なお、この発生の原因原虫であるT.
equiの伝播は、自然感染経路のダニ媒介性のものではなく注射針などを介しての人為的なものと結論付けられ、6ヶ月後の2009年2月に清浄化が宣言された。
この清浄化宣言の4ヶ月後の2009年6月に、今度はミズーリー州でEPの発生が報告された。この発生では、ミズーリー州とカンザス州に所在していた76頭のウマが検査され、最終的に8頭のウマがEP陽性と確認された。なお、8頭中5頭のウマについては安楽死の処置が施されたが、残りの3頭のウマについては検疫中に不法に移動され、所在が不明になったままである。この発生では、発生源または感染源は不明であるが、この発生の原因原虫のT.
equiの伝播は自然感染経路のダニ媒介性のものではなく、汚染された注射針などを介しての人為的なものと結論付けられ、3ヶ月後の9月に清浄化が宣言された。
この宣言の1ヵ月後の10月に今度はテキサス州で非常に大規模なEPの発生が報告された。12月21日現在、テキサス州の発生と疫学的な関連性が認められるEP陽性馬は米国13州で摘発され、陽性馬頭数は合計357頭に達している。この発生では、既に1,500頭以上のウマが検査されているが、13州で摘発された357頭のEP陽性馬は当該牧場の発端施設と疫学的に直結する結びつきが確認されている。しかし、今回の発生源または感染源については現時点では明らかになっていない。注目すべきは、この発生では汚染された注射針などを介しての人為的な伝播以外に自然感染経路のダニ媒介性の伝播が確認されている点で、フロリダ州やミズーリー州の発生と大きく異なっている。媒介ダニとしては、Anocentor
nitens、 Dermacentor variabilis、 Amblyomma cajennenseの3種類が捕集され、確認されている。なお、このテキサス州の一連の発生と疫学的関連性は確認されていないが、2009年12月にニューメキシコ州で3頭のEP陽性馬が競馬場の自衛検査で摘発されている。この発生での伝播は、ダニ媒介性というより飼養管理上の悪習(注射針や輸血)によって起きたことが示唆されているが、発生源または感染源は不明である。
一方、2009年10月に米国農務省のHPに、米国の馬群におけるEPの血清疫学調査結果が報告され、T. equiおよびB.
caballiに対する抗体保有馬が低率ながらも存在する可能性が示唆された。この調査は、2005年から米国農務省の資金提供で行われている馬伝染性貧血(EIA)の疫学調査に使用されたウマ血清を用いて実施されたもので、2007年10月から2008年6月までに採取された15,300例の血清を用い、国立獣医学研究所(NVSL)でエライザ法により検査されたものである。B.
caballiの陽性頭数は10万回の検査当たり54頭で、T. equiの陽性頭数は10万回の検査当たり7頭であった。因みに、EIAの陽性頭数は10万回の検査当たり6頭である。報告では、2008年のフロリダ州における発生調査結果からもっと高い陽性率を予想していたが、非常に低いものであったと結論付けられている。しかしながら、EIAは米国では毎年100頭以上の陽性馬が摘発されており、潜在的な陽性馬は少なく見積もっても数100頭は下らないと考えられており、今回の数値を単純にEPに当てはめることはできないものの、B.
caballi とT. equiの陽性馬はかなりの頭数になると推察される。この血清疫学調査結果については、既に米国では受け入れられていると思われ、ニューメキシコ州でのEPの発生時にはこれを踏まえたコメントがなされている。
以上、これまでに紹介してきた米国でのEPの発生状況、防疫対策の実施状況、血清疫学調査結果などから、米国の馬群におけるEPの汚染状況は、低率といいながらも広範囲に拡大している可能性があり、米国はEPの清浄国とは言えない状況にあることが明らかとなった。このことから、今後テキサス州を含めた米国全土におけるEPの汚染状況の把握と清浄化対策の推進が必要と考えられ、現状は米国が再びEPの清浄国としての立場を確保できるか、それとも汚染国になるかの瀬戸際に立たされている状況と思われる。因みに、1988年にEPの清浄化を達成した際には、フロリダ州を中心に約1200万ドルを費やしたといわれている。
参考情報
1. ProMED-mail post, No. 20080819.2579, No. 20080823.2626.
2. Horsetalk-International horse news, 2009. 2. 24..
3. OIE World Animal Health Information Database, 2009. 6. 11,
2009. 9. 15.
4. OIE World Animal Health Information Database, 2009. 9. 8,
2009. 12. 14.
5. OIE World Animal Health Information Database, 2009. 10. 20,
2009. 12. 24.
6. Horsetalk-International horse news, 2009. 12. 30.
7. Equine Piroplasmosis, USDA-APHIS, Factsheet, July 2008..
8. Seroprevalence of Equine Piroplasmosis Diseae Agents in the
United States, USDA-APHIS, Info Sheet, October 2009.
9. Equine Piroplasmosis and the 2010 World Equestrian Games,
USDA-APHIS, May 2008.
(競走馬総合研究所栃木支所 鎌田正信 2010.
1. 19)
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