三冠馬オルフェーヴル号の走り方
 


 
写真1 解析に使用した高速ビデオカメラ映像(菊花賞ゴール前)
(上:2011年オルフェーヴル号、下:2005年ディープインパクト号)。

 2011年秋、オルフェーヴル号は京都競馬場で開催された菊花賞を制し、ディープインパクト号以来7頭目の中央競馬三冠馬となりました。ここでは、三冠馬オルフェーヴル号の走り方について、同じ菊花賞に出走した二着以下の馬と比較したいと思います。
 解析には、高速ビデオカメラで撮影した菊花賞のゴール手前100mの画像を使用しました。その画像から四肢の着地および離地のタイミングや、着地した位置の距離を測定し、測定結果から走法の特徴を解析しました。また、同様に解析したダービーの走法や、ディープインパクト号の菊花賞での走法と比較しました。

1) 四肢の着地時間と空中浮遊時間

 
 
図1 ゴール手前100m地点における四肢間着地時間と空中浮遊時間の比較
 2011年菊花賞のオルフェーヴル号、その他の計測可能馬の平均、および2005年菊花賞のディープインパクト号。

 図1は、一歩の中でそれぞれの肢が着地あるいは離地したタイミングから求めた四肢間の着地時間を示しています。
 これまでの研究から、競走馬が速く走るためには、両後肢(反手前-手前後肢)が同時に着地している時間、および手前後肢−反手前前肢が同時に着地している時間の短縮が重要であることが明らかにされています。オルフェーヴル号の場合、両後肢が同時に着地している時間(0.024秒)は他馬の平均値と同様でしたが、手前後肢−反手前前肢が同時に着地している時間(0.024秒)は、他馬の平均値より短く、速く走る競走馬に共通するものでした。
 次に、四肢がすべて空中に浮遊している時間を解析しました。オルフェーヴル号が空中に浮遊していた時間(0.128秒)は、菊花賞に出走した他馬の平均(0.146秒)より短く、菊花賞時のディープインパクト号(0.124秒)と概ね同じでした。空中に浮遊している時間を長くする走法では、体の上下動が大きく、無駄な力を使うことになります。オルフェーヴル号は無駄な力を使用することなく、効率の良い走法をしていました。

2) 四肢間の着地距離

 
 
図2 ゴール手前100m地点における四肢間着地距離の比較
 2011年菊花賞のオルフェーヴル号、その他の計測可能馬の平均、および2005年菊花賞のディープインパクト号。

 四肢間の着地距離も、競走馬が速く走るために重要な要素です。従来の研究から、速く走るためには体躯を伸ばすことにより、手前後肢−反手前前肢間の距離を伸ばすことが重要であることが明らかになっています。今回の解析から、オルフェーヴル号は他馬と比較して手前後肢−反手前前肢間の距離は確かに長かったのですが、デープインパクト号と比較した場合、その伸ばし方に異なる特徴がありました(図2)。ディープインパクト号は両後肢間の着地距離を短縮することなく、手前後肢−反手前前肢間の距離を伸ばしていましたが、オルフェーヴル号は両後肢間の着地距離を短縮することにより、この距離を伸ばしていました。この相違は、測定区間において、ディープインパクト号は速度を維持するように走行していたのに対し、オルフェーヴル号はピッチを上げてさらに加速していたことによると考えられます。
 このように両者は走法が異なるため、走る姿も異なっていました。写真1は反手前前肢を着地した瞬間の姿ですが、ディープインパクト号の手前後肢はかなり前方へ傾いていますが、オルフェーヴル号はあまり傾いていません。

3)ピッチとストライド長


 図3 2011菊花賞の走行速度(左)、ピッチ(中央)、ストライド長(右)
●;オルフェーヴル号、○;他の菊花賞出走馬、
;ディープインパクト号(2005)

 次に、一歩(ストライド)の長さと一秒間の歩数(ピッチ)を解析しました(図3)。四肢で走行する馬では、一本の肢が着地してから同じ肢が次に着地するまでを一歩(ストライド)と定められており、その長さがストライド長、一秒間の回数がピッチとなります。このストライド長とピッチは速度を決定する重要な要素であり、走速度は、これらの積で決定されます。
 オルフェーヴル号のストライド長は、測定できた出走馬の中で6番目に長い7.32mでしたが、ピッチは最も高値を示す2.38回/秒でした。つまり、オルフェーヴル号はストライドを伸ばすより、ピッチを増加させることによって、他馬より速く走り、その速度はディープインパクト号の菊花賞と概ね同じでした。
 以上のことから、オルフェーヴル号の走りの特徴は、ピッチ走法であるように思われます。しかし、今回の撮影はゴール前100mの区間であり、オルフェーヴル号は後ろから迫る後続馬を引き離すため、さらに加速する必要がありました。競走馬が加速するためには、ストライドを伸ばすのではなく、ピッチを上げる必要があることが明らかにされています。このため、オルフェーヴル号のピッチが増加した可能性があります。次に述べますが、不良馬場のダービーでは、他の多くの馬がストライドを伸ばせない中、オルフェーヴル号は長いストライドを維持して走っており、ピッチはあまり上がっていませんでした。オルフェーヴル号がストライドの長さとピッチのどちらを優先した走り方が得意なのか、残念ながら現時点では断定できませんでした。

4)ダービーでの走り方


図4 2011年ダービーの走行速度(左)、ピッチ(中央)、ストライド長(右)
●;オルフェーヴル号、○;他のダービー出走馬、

 以上の解析結果から、菊花賞のゴール前100メートルにおいて、オルフェーヴル号はディープインパクト号とは若干異なる走法で、しかし同様に速く走っていたことがわかりました。
 オルフェーヴル号の走法の特徴は、菊花賞よりダービー時により顕著に現れていたと思われます。2011年のダービーは不良馬場であったことから、多くの馬がゴール付近でストライド長を伸展できませんでした(図4)。しかし、このような状態でもオルフェーヴル号は、菊花賞よりストライド長を伸展させました。オルフェーヴル号の走法の特徴はこのように滑りやすく不安定な馬場であっても、ストライド長の伸展が可能なバランスの良さにあるのかも知れません。今後も、このような特徴を生かした走りで、活躍してくれることを願っています。

(運動科学研究室 2012.2.16)

 
 

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