(International Collating Center からの情報)
日本中央競馬会(JRA)から、今回の日本での馬インフルエンザ(EI)発生について以下の情報が提供された。
2007年8月15日に始まった発生は終息こそしていないが、その状況は落ち着きつつある。この広範囲にわたる発生によって、国内のサラブレッド種および非サラブレッド種競走馬ならびに乗用馬が感染した。サラブレッド種競走馬はすべて1年に2回のワクチン接種が義務付けられている。
2007年10月3日時点で、21都道府県1350頭が顕性あるいは不顕性に感染していた。正確な感染施設数の把握は困難である。いずれも鼻粘膜スワブを用いたA型インフルエンザウイルス検出キット、あるいは家畜保健衛生所やJRA競走馬総合研究所栃木支所におけるRT-PCR検査によって診断された。
2007年9月18日、JRAの競馬国際化対応会議は、JRA施設におけるEI発生に関する中間報告を以下のようにまとめた。ただし、この報告には生産地や地方競馬全国協会(NAR)の施設といったJRA施設以外の発生については含まれていない点に注意が必要である。
JRA施設でのEI大発生に関する中間報告
序文:
本報告は、日本国内におけるEI発生のうちJRA施設に関する情報をまとめたものである。8月15日に最初のEI感染馬が発見されてから現在までの推移およびJRAが実施した防疫対策に関する情報提供が目的である。
概要:
8月15日、茨城県美浦トレーニング・センター(TC)において、発熱したサラブレッド種競走馬の鼻粘膜スワブを採材し、A型インフルエンザウイルス検出キット(IDK、富士レビオ、日本)を用いて検査したところ、陽性反応が認められた。鼻粘膜スワブをJRA競走馬総合研究所栃木支所に送付し、RT-PCRを実施したところH3N8型馬インフルエンザウイルスのHA遺伝子を検出した。この結果により、同馬がEIVに感染していることが確認された。
JRAのすべての競馬場と両TCではサラブレッド種競走馬と乗用馬が繋養されていることから、馬と人に対して移動禁止措置がとられた。8月16日および17日には、JRA施設に繋養されている4,235頭の馬のうち967頭に対してIDKによる馬インフルエンザ検査を実施したところ、19.4%が陽性であった。この結果をうけ、8月18日(土曜日)および19日(日曜日)に、札幌、新潟および小倉の競馬場で予定されていた計6日分の競馬開催が中止となった。発熱馬頭数は、8月18日(土曜日)がピークであり、IDKによる検査ではその日だけでも38頭の陽性馬が確認された。しかし、状況はすぐに終息に向かい、新規のIDK陽性馬数はわずかとなった。8月20日および21日には、JRA施設に繋養されている馬4,235頭の馬のうち2,012(47.5%)頭に対してIDKによる馬インフルエンザ検査を実施したところ、陽性率は9.0%であり、8月16日、17日に実施した検査での陽性率(19.4%)から大幅に減少していることが明らかとなった。
8月25日には、以下の条件下でJRAの競馬開催が再開された。
1) 馬の移動は、JRA施設間のみとする。
2) IDKによりEI陰性と診断された馬のみ出走可能とする。
3) 出走可能と診断された馬は、出馬投票前に再度IDKによる検査を受けなければならない。 陽性馬は、すべて隔離する。
4) 開催日には、出走予定馬全頭を対象にJRA獣医師が臨床検査を実施する。EIの疑いが ある症状を示した馬は、いずれも競走から除外する。

8月27日以降はIDK陽性馬が確認されず、状況は鎮静化に向かい始めたと判断されたため、9月4日に、JRA施設とその他の施設間における入退厩が限定的に再開された。この入退厩は、美浦および栗東TCに限定して実施され、一日当たりの頭数は50頭を目処とした。
入退厩に際しては、JRAが規定したその他の要件も満たす必要がある。その要件の概要は以下の通りである。
1) JRA施設から退厩する馬は、退厩日前の1週間、検疫区域で飼養し、この間にEIを疑う臨床症状が認められなかったこと。
2) JRA施設から退厩する馬は、原則として退厩前1週間の最初と最後にIDKによる検査を行い、その結果が陰性であったこと。
3) 馬の健康状態、検査結果については健康手帳に記載し、退厩馬に携行させること。
4) 退厩馬の情報については、仕向け先の牧場および都道府県庁畜産課あるいは管轄家畜保健衛生所へ連絡すること。
5) 仕向け先の牧場に対しては、JRA施設から到着後1週間もしくは10日間以上の隔離と臨床観察、必要に応じた検査の実施を依頼すること。
6) JRA施設に入厩する馬については、現行の係留検査(概ね6時間の係留と2回の体温測定および臨床観察)を実施し、健康であること。
7) JRA施設に入厩する馬は、IDKによる検査を行い、その結果が陰性であること。
8) JRA施設に入厩する馬は、入厩前に臨時のワクチン接種を推奨する(入厩2週間程度前に接種することが望ましい)。なお、臨時ワクチンが未接種で入厩する馬は、検疫期間中にワクチンを接種する。
9) JRA施設に入厩する馬は、現行のインフルエンザ予防接種の入厩条件を満たしていること。
最初の陽性馬の確認以降9月18日までに実施した発熱馬に対する検査と疫学検査の累計は8,351頭にのぼり、603頭が陽性と診断された。その内訳は、疫学検査が7,745頭、うち413頭(5.3%)が陽性、発熱(38.5°C以上)馬に対する検査が606頭、うち194頭(32.0%)が陽性であった。
JRAにおける馬インフルエンザ(EI)ワクチン接種要領:
JRAの競馬に出走する馬は、以下のワクチン接種要領を満たす必要がある。本要領は、1972年に東日本地方でEIが大流行し、約2ヶ月間にわたる競馬開催の中止を余儀なくされた後に規定された。
2003年以降に国内で出生した馬は、
1) 1歳時に2週間から2ヶ月の間隔で2回接種(基礎免疫)し、初回補強接種は1歳時に実施しること。
2) 以降半年毎に1回の補強接種を実施すること。
2003年以降に海外で出生した馬は、
1) 輸入後速やかに2週間から2ヶ月の間隔で2回接種(基礎免疫)し、その後4週間から7ヶ月の期間内に、初回補強接種を実施すること。
2) 以降半年毎に1回の補強接種を実施すること。
JRAに登録される競走馬はすべて、このEIワクチン接種要領を満たす必要がある。JRAでは、ワクチン接種にかかる経費の50%を補助している。JRAに所属するすべての競走馬は、1年に2回ワクチン接種を受けており、直近では2007年5月に接種されていた。
国内で使用されているEIワクチンには、A/equine/La Plata/93(H3N8アメリカ型)、A/equine/Avesta/93(H3N8ヨーロッパ型)およびA/equine/Newmarket/77(H7N7型)の3株が含まれている。
隔離措置:
発熱馬については、原則として隔離する。別棟での隔離が困難な場合には発熱馬は無症状馬とできる限り離して収容する。
消毒措置:
1) 施設
・消毒の実施を徹底すること。
・厩舎および馬房消毒には、1000倍希釈したパコマを用いること。
・馬場、馬道および構内施設には、2000倍希釈したパコマを用いること。
2) 馬運車
・JRA施設への入退場に際しては、タイヤ周囲を重点的に消毒すること。消毒方法につい てはシュロマットの設置あるいは噴霧器を使用すること。
・馬を輸送した馬運車は、使用毎に車内およびタイヤ周囲を重点的に消毒すること。
3) 人間
・JRA施設への入退場に際しては、踏込槽で履物を消毒し、馬に接触する際には手洗い等を実施すること。
・JRA施設外における競走馬との接触は避けること。
・やむを得ず施設外の馬に接触した場合は、JRA施設内で競走馬に接触する前に衣服を着替えること。
4) 使用済みの寝藁、馬糞および飼い葉
・JRAのコンポストで堆肥化させ、適切に処理すること。
JRA施設内におけるIDKを用いた疫学調査結果のまとめ
| Date |
Number of tests conducted (A) |
Number of positive cases (B) |
Percentage positive (B/A) |
| 16-17 August | 967 | 188 | 19.4% |
| 20-21August | 2,012 | 181 | 9.0% |
| 23-August | 1,321(*) | 41 | 3.1% |
| 30-August | 1,245(*) | 1 | 0.1% |
| 6-September | 1,069(*) | 1 | 0.1% |
| 13-September | 1,131(*) | 1 | 0.1% |
病原体
感染馬から分離されたウイルスは、赤血球凝集素(HA1)およびノイラミニダーゼ(NA)遺伝子の配列解析により、フロリダ亜系統(アメリカ型)のH3N8型馬インフルエンザウイルスと同定された。
結論:
国内の発生状況について現時点で結論付けるのはまだ早いが、36年前(1972年)の大流行以後、継続してきたワクチン接種の励行により、JRA施設における発症馬を最小限にとどめることが出来たと言ってよいと考える。1972年、日本では、約7000頭の馬が感染し(感染率99.0%)、その中にはJRAに登録された2000頭の競走馬が含まれていた。重度の症状を示す馬もおり、東日本においては2か月間に及ぶ競馬開催の中止を余儀なくされた。2007年の発生における感染率および発症率は低く、わずか2日間(6開催分)の競馬開催が中止されただけであった。
今回の馬インフルエンザウイルスの起源、および日本への侵入経路については、まだ明らかになっていないが、本ウイルス株は、ヨーロッパおよび北アメリカで報告されている株とほとんど同じである。JRAは農林水産省動物衛生課と今後の対策について協議しており、ワクチン株変更手続きの迅速化と競走馬以外の馬へのワクチン接種要領の拡大が望まれる。